丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー虚と実ー
「私は鏡だ」で始まる十一月十四日は、「まほろ町が電話ボックスの三方に設置した 等身大の鏡」が語る。その鏡を覗き込んで反応する女たち、男たち、子どもたち、年寄りたち、犬ども……それぞれのイメージを捉え、ユーモラスに反応を語っている。私自身なら、そんな三方に等身大の鏡がある電話ボックスなんて入る気にならないかも……とふと思う。
以下引用文。世一に「誰だ、おまえは?」と訊かれた鏡が、訊き返す場面。
最後の「おのれから無限に隔たったおのれの世界へと帰って行った。」という言葉に、実像と虚像の関係とはこういうことなのかもしれない……となぜか納得してしまう。
そして世一という不思議な存在を感じる文だと思った。
だから苦し紛れに
「おまえこそ誰だ?」と訊き返し、
すると世一はにやりと笑い
おのれから無限に隔たったおのれの世界へと帰って行った。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」181頁