丸山健二「千日の瑠璃 終結」を読む
ー悲惨さを打ち消すイメージー
十一月十三日の語り手は「快晴」である。快晴が見つめ語るのは「妻子ある男と私通」した挙句、青い花束を買って松の木で首吊り自殺をする女。「快晴」のとことん晴れ渡っている様子と女に象徴される何とも悲しい人間の世界、この対比が以下二箇所の「快晴」の描写によって際立っている気がする。
一年に一度
もしかすると十年に一度
あるかないかの
透明度が尋常ではない
完全無欠の快晴だ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」174ページ
しかし
私はいささかも動じず
素知らぬ体を装って長時間をやり過ごし、
美し過ぎる落日を迎えて
夜の帷が降りてからも
完璧さを保ちつづけ、
一片の雲も
ひとかけらの感傷も寄せつけなかった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」177ページ)
以下引用文。無惨な最後をとげた女だが、「白い花束」「青い花束」「ぴかぴかの月」のイメージが清浄な世界を示しているようで、自殺の事実にも関わらず救いを感じさせてくれる。
泣くだけ泣いた女友だちが
松の根元に供えた白い花束は青い野の花をさらに引き立たせ
ぴかぴかの月にもよく馴染んでいた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」177ページ)