丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー帽子ひとつに世一の心を反映させてー
十二月二十一日は「私は帽子だ」で始まる。
雪原を転がっている途中、世一が拾い上げ「つばの部分にじょきじょきと鋏を入れて両端を切り落とし、尖端を三角定規のように あるいは鳥の嘴のように尖らせた」帽子である。
以下引用文。「つむじのない頭」で世一の尋常ではない様子が少し仄めかされる気がする。
「長い影をじっと見つめ」「私の角度をあれこれ変えて」「鳥に近い形の影を作り」というところに、無邪気で打算のない世一の姿が少しずつ鮮明に見えてくる。
「一羽の鳥と化したのだ」という文で、世一のピュアな心が頂点に達する気がする。
そして私をつむじのない頭に載せると
すぐにまた外へ飛び出して
傾きかけた太陽に背を向けながら
足元に落ちているおのれの長い影をじっと見つめ、
それから私の角度をあれこれ変えて
最も鳥に近い形の影を作り、
かくして
一羽の鳥と化したのだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」327ページ)