Smith: The Theory of Moral Sentiments | Library of Economics and Liberty.
1.1.12
母の心はどれほど痛むことだろう。病床にある我が子は苦しんでいるのに、その痛みを訴える言葉も知らない。ただ苦悶の声を洩らしているだけだとしたら。我が子が苦しんでいるという思いにかられた母は、なすすべのない子どもの現実に己の無力感をからませ、我が子の病の先がわからないという恐怖をかさねていく。苦悶、無力感…これらすべてのことが母の悲しみのもととなり、悲惨さや絶望を完璧なまでに描いてみせる。だが子どもは、今この瞬間だけが、不安なのである。子どもの不安はたいしたものではない。未来を考えたとき、子どもとは揺るぎない存在である。子どもが軽率なのも、慎重さにかけるのも、私たちの胸に拷問のようにやどる恐怖や不安を解毒するためなのである。やがて子どもが成長して大人になったとき、理性や哲学の力で自らの子どもを守ろうとしては、むなしく終わるのだ。(さりはま訳)