Smith: The Theory of Moral Sentiments | Library of Economics and Liberty.
たしかにそうだ。死という凄惨な不幸にのたうちまわる者の気持ちになることは、とうていできやしない。だからかつての仲間が忘れさられる危機に瀕したり、むなしい名誉をたたえて弔意をのべたりするときに、仲間によせる気持ちがずるいものに見えてくる。これが自分の貧苦につながるなら、悲運におかれた死者の憂鬱な思い出を鮮明に残そうとして努力する。共感するといっても、死の不幸にあるひとを慰めるほどの余裕はない。せいぜい死の不幸におまけを添えるくらいのことしか出来ないだろう。死の不幸にたいして出来ることすべてを考えてみたところでむなしい。人々の絶望や後悔、恋慕の情、そのまた友達の悲嘆を癒してくれるすべてのものですら、死の不幸にある者を慰めることはない。死の不幸にある者の悲惨さについて思う私たちの気持ちがいっそう強くなるだけである。