Smith: The Theory of Moral Sentiments | Library of Economics and Liberty.
その一方で、死者の幸せとは言うまでもなく、こうした状況から一切影響をうけない。またこうした状況について考えてみても、休息についている死者の、ふかい安らぎを妨げることはできない。だが、死とは悲しみにみちた、果てのない憂鬱だと考えるひともいる。夢想家は、憂鬱の原因を死者の特質のせいにする。死を憂鬱なものだとする考えが生じるのは、死者に起きた変化に自分を結びつけ、私たちが死者の変化を意識するからであり、死者の状況に身をかさねるからである。もしこのように語ることが許されるなら、私たちの存在を、すなわち生き生きとした魂を、死者の生命のない体に感じ、こういうことになれば自分がどう感じるのだろうと思うからである。想像力がかきたてるこの幻影のせいで、体が腐り朽ちていくさまを予見することが私たちにとってつらいものとなる。また死んだら痛みはない筈なのに、こうした状況を考えると、生きているときから惨めな気持ちになる。死の恐怖がもとになり、人間の本質のなかでももっとも重要なものである道徳規準が生じる。道徳規準とはすなわち死の恐怖であり、幸せへの弊害となるものである。だが人間の不正をしようとする心をおさえるものである。道徳規準はひとりひとりを打ち負かして屈辱をあたえるが、一方で社会を守り保護してくれるものである。