丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月十二日を読む
ー楽器の音色が語りかけてきそうー
九月十二日は「私は楽器だ」で始まる。薪ストーブ作りの男が久しぶりに手にした「金属製のリード楽器」が語る。
以下引用文。楽器の奏でる音が聞こえてくるような気がするのは「滑り」「吸いこまれ」「諭し」というサ行音の効果だろうか、それとも「吸いこまれ」「失いつづけ」と平仮名の量が多いせいなのだろうか?楽器の音が流れてゆく風景、その音に託した楽器の、丸山先生の声が聞こえてきて印象に残る。
十数年ぶりに私が発する震動は
夜気を震わせて湖面を滑り
星夜へと吸いこまれ
奏者自身の胸のうちへと逆流し、
あれから何を失ったのかをやんわりと諭し
今なお失いつづけて
このままでは芯から腐ってしまうことを
厳しく指摘して警告を与えてやった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』189ページ)