丸山健二『千日の瑠璃 終結4』9月15日を読む
ー生から一転して死の世界へー
九月十五日は「私はサルスベリだ」で始まる。なんとも幻想味漂う箇所である。
以下引用文。寺の境内に咲くサルスベリ。その姿が生気にあふれる分だけ、死霊たちとのコントラストが鮮やかで印象的である。
私はサルスベリだ、
まだまだいくらでも花を咲かせつづけて夏を限界まで引き延ばす
動物並の生気に満ちあふれた
この界隈では一番古手のサルスベリだ。
ありったけの紅色を武器にして
境内に漂う死の気配を相手に孤軍奮闘している私は、
隙あらばこの世に舞い戻ろうと機を窺う死霊たちの
虫のいい願いを押し返しており、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』198ページ)
豪雨で崖が崩れ、寺の墓石も全部土砂に埋まるなか、サルスベリは墓地の水分を吸い上げる。すると花は黒く変色して落下。
枝にとまった青い鳥が「おまえは死んだのさ」と鳴く。
生にあふれていたサルスベリが死んだ木に一変する展開に、華やかな生が死に転じることで不思議な色を帯びてくるのを感じる。