丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より一月二十六日「私は寒波だ」を読む
一月二十六日は「私は寒波だ」で始まる。破門されてしまい厳寒のまほろ町を行き場もなく彷徨う修行僧を苦しめる寒波が語る。
以下引用文。まほろ町の厳しい寒さが、雪洞やらボート小屋やら縁の下の描写を通して体に感じる寒さで書かれている。
厳寒を経験したことのない者には、無理な描写ではないだろうか。寒い地の人であっても、寒い中ウロウロ観察して歩かない限り見えてこない景色ではないだろうか。
寒さを知っていて、その寒さにも負けないで観察眼を発揮して歩きまわる丸山先生だからの文だと思う。
森のなかに雪洞を掘って滑りこんでみたが
山男から聞かされていたほど暖かくはなく、
貸しボートが仕舞ってある小屋で三晩ほど過ごしたものの
ひっきりなしの隙間風や
うたかた湖の水があげる悲鳴が気になって
一睡もできないありさまで、
あまびこ神社の社殿の縁の下に移っても
やはり結果は同じで
私から逃げ果たせることは無理だった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』331ページ)
