丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より三月十二日「私は恍惚だ」を読む
まほろ町に駆け落ちしてきた二人は悪事に手を染め、大金を手に入れる。
以下引用文。
ただ実際に遊んで暮らせるようになった人の様子をそっと見ていると、やれることはやっても意外と退屈しきってしまい、何をすればいいのか時間を持て余しているように見える。
果たして「それこそが理想の人生」なのか「それこそが自由にほかならない」のか。当人達も「お金があるから不自由」を感じているようにも見える。
そんな立場は、経験したことがないからわからないが。
たった五回の上京で一年分の生活費を易々と稼ぎ出し
ために
ドイツ製のサイドカー付きオートバイまで購入し、
遊んで暮らせる身分になってみると
それこそが理想の人生であったことに気づき
それこそが自由に他ならないことを悟り、
それ以外の日々は
人間らしい暮らしからあまりに掛け離れた
絶対に戻りたくない
生きるに値しないものと断定した。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』111ページ)