丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月二十九日「私は錠前だ」を読む
「内へ内へと籠りがちな若者」が暮らす土蔵の錠前が語る。
鉄格子の窓、コンビニ弁当、湯冷まし……と味気ない言葉が続いた後にくる「追憶にくるまれたリンゴ」は何とも美味しそうで、どんな色形をしているのだろうと想像してしまう。
暗い土蔵がたったリンゴ一個で明るくなるようなインパクトがある。
鉄格子の嵌まった高いところの窓から射しこむ月明かりを頼りに
味気ない夕食を始め、
コンビニで買ってきた弁当を食べ
湯冷しを飲み
食後のデザートとして
追憶にくるまれたリンゴを齧った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』302ページ)