さりはま書房徒然日誌2025年8月9日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十六日「私は家鳴りだ」を読む

家鳴りを聞きながら、夜毎、農夫は色々悩む。

家鳴りなんて、生活圏から消え去って久しい音のような気がする。
家鳴りを感じるには、今の夜はあまりにも賑やかで明るくなってしまった。
家鳴りに怯えた幼い日の記憶が蘇る。

私は家鳴りだ、

まったく見通しが立たぬはずなのに
いまだやる気を失っていない農夫をひっきりなしに悩ます
  夜ごとの家鳴りだ。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』370ページ)

家鳴りでありながら、人の声でもあるような不思議さがある。

すかさず私は
   買い手が現れた今こそ
      農地の売り時であるという
         そんな意味の音をぴしっと発して
            決断を迫る。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』372ページ)

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