丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十六日「私は家鳴りだ」を読む
家鳴りを聞きながら、夜毎、農夫は色々悩む。
家鳴りなんて、生活圏から消え去って久しい音のような気がする。
家鳴りを感じるには、今の夜はあまりにも賑やかで明るくなってしまった。
家鳴りに怯えた幼い日の記憶が蘇る。
私は家鳴りだ、
まったく見通しが立たぬはずなのに
いまだやる気を失っていない農夫をひっきりなしに悩ます
夜ごとの家鳴りだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』370ページ)
家鳴りでありながら、人の声でもあるような不思議さがある。
すかさず私は
買い手が現れた今こそ
農地の売り時であるという
そんな意味の音をぴしっと発して
決断を迫る。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』372ページ)