丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十七日「私は閃光だ」を読む
「長いと思えば長い 短いと思えば短い そんな一夜が明け渡ろうとした際に まほろ町の上空を彩った まばゆい閃光」が語る。
丸山作品の魅力は地面ばかりを見つめているような、己の財布の中ばかりを考えているような人間をクローズアップで書くと同時に、はるか遠くのことまで思う視点にあると思う。
心が静かになる文。
私自身にさえ
おのれの正体がわかっていなかったのだ。
もしもこんなことを問う者がいた場合には
私のほうもまたそっくり同じ質問を返して、
「おまえはなんだ?」と
厳しく迫るつもりだった。
私が消えるまでの時間とは言えぬほどのあいだに
まほろ町だけで数千億個にものぼる命が誕生し
それと同じ数の命が死滅してゆき、
しかし
そのことによって世界が特別の意義を帯びたりはしなかった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』377ページ)