さりはま書房徒然日誌2025年8月13日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十七日「私は閃光だ」を読む

「長いと思えば長い 短いと思えば短い そんな一夜が明け渡ろうとした際に まほろ町の上空を彩った まばゆい閃光」が語る。

丸山作品の魅力は地面ばかりを見つめているような、己の財布の中ばかりを考えているような人間をクローズアップで書くと同時に、はるか遠くのことまで思う視点にあると思う。

心が静かになる文。

私自身にさえ
   おのれの正体がわかっていなかったのだ。

もしもこんなことを問う者がいた場合には
   私のほうもまたそっくり同じ質問を返して、

「おまえはなんだ?」と
   厳しく迫るつもりだった。

私が消えるまでの時間とは言えぬほどのあいだに
   まほろ町だけで数千億個にものぼる命が誕生し
      それと同じ数の命が死滅してゆき、

しかし
   そのことによって世界が特別の意義を帯びたりはしなかった。

(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』377ページ)

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