丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十一日「私はくしゃみだ」を読む
鉄塔のてっぺんで働く男がスギ花粉のせいでした「くしゃみ」。
そのくしゃみに知らないうちに良い影響を受け、次々と変化していく人々。
いろんな人々がそれぞれ変わっていく有様が、どこか映画の一場面を観ているようでもある。
まさにくしゃみの瞬間、という感じに映像が浮かんでくるのは何故だろうか、とも不思議に思う。
他愛もないことでふくれっ面をする
気のいい娘には
感じのいい笑みを授ける。
それから私は
何はともあれ
きのうに引きつづいてきょうもまた
コンニャクのごとく全身を震わせて生きるしかない
かの少年の背筋を
ほんの一瞬だけ
しゃきっとさせ、
あしたのための活力を
その不満足な五体の隅々まで
素早く送り届ける。
( 丸山健二『千日の瑠璃 終結7』77ページ)