さりはま書房徒然日誌2025年9月9日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十三日「私は郵便ポストだ」を読む

母親の切ない気持ちが伝わってくる。
でも、もしかしたら手紙や郵便ポストとも縁がない世代の人たちには、この切ない身ぶりが伝わらないのだろうかと考えると、それもまた切ない。

私は郵便ポストだ、

   久しく音信がない息子への
      切々たる文面の手紙を呑みこんだばかりの
         しかし
            それでもまだ腹ペコの郵便ポストだ。

憐れなその母親は
   投函の切ない音をはっきりと聞き取ったにもかかわらず
      私の口に無理やり手を差し入れて
         手紙がどこかに引っかかっていないかどうかを
            念入りに調べ、


( 丸山健二『千日の瑠璃 終結7』82ページ)

郵便ポストに抱きついて、母親は「親なんてなるんじゃなかった」と言う。
世一も郵便ポストに抱きついて、以下のようなことを言う。
深い後悔の感じられる言葉である。

普段の声とは思えぬ
   腹の底どころか
      魂の底から搾り出したとしか思えぬ低音で
         「人間なんかになるんじゃなかった」と
             確かそんなことを言って立ち去った。

(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』85ページ)

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