丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月一日「私は咆哮だ」を読む
「まほろ町が赤字を押して営みつづける動物園に もう大分長いこと飼われている 老いたライオン」の咆哮が語る。
今は老いぼれライオンでも、かつて咆哮で静めた様々な人の営みが語られる。
そのあと、やってくる世一の無邪気さ。
「慰め顔」という言葉に世一の優しさを感じる。
「咳きこみながらの大サービス」という言葉に老ライオンの姿が目に浮かんでくる。
小さな町の動物園の一コマが浮かんできて、そこでは弱い世一も、老いぼれライオンもしっかりと輝きを放っている。
きょう
少年世一がやってきて
慰め顔で
私のあまりの凄まじさに
驚いて腰を抜かしそうになったと言った。
見え透いた世辞だと承知していながら
すっかり嬉しくなってしまった私は
咳きこみながらの大サービスをしてやり、
すると世一は
ふらつく体を一段とふらつかせ
背を大きくのけ反らせて
今にも気絶しそうだなどと言い、
あげくに
ぶっ倒れる真似までしてくれ
同じ園内で飼育されているインコが
「馬鹿か!」と言っても止めない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』157頁)