さりはま書房徒然日誌2025年10月14日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月一日「私は咆哮だ」を読む

「まほろ町が赤字を押して営みつづける動物園に もう大分長いこと飼われている 老いたライオン」の咆哮が語る。

今は老いぼれライオンでも、かつて咆哮で静めた様々な人の営みが語られる。
そのあと、やってくる世一の無邪気さ。

「慰め顔」という言葉に世一の優しさを感じる。

「咳きこみながらの大サービス」という言葉に老ライオンの姿が目に浮かんでくる。

小さな町の動物園の一コマが浮かんできて、そこでは弱い世一も、老いぼれライオンもしっかりと輝きを放っている。

きょう
   少年世一がやってきて
      慰め顔で
         私のあまりの凄まじさに
            驚いて腰を抜かしそうになったと言った。

見え透いた世辞だと承知していながら
   すっかり嬉しくなってしまった私は
      咳きこみながらの大サービスをしてやり、

すると世一は
   ふらつく体を一段とふらつかせ
      背を大きくのけ反らせて
         今にも気絶しそうだなどと言い、


あげくに
   ぶっ倒れる真似までしてくれ

同じ園内で飼育されているインコが
   「馬鹿か!」と言っても止めない。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』157頁)

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