丸山健二『千日の瑠璃 終結8』より十月十三日「私は衣だ」を読む
「夏場の勢いがとうに失われている草の上に 下着といっしょに乱雑に脱ぎ捨てられた」墨染の衣が語る。
冒頭の「夏場の勢いがとうに失われている」は今後を暗示しているかのよう。
「シクラメンの花をあしらった」「蝉の抜け殻のごとく」で語らずして、着ている主が見えてくる。
「汚濁したまま」「コールタール」「欲望そのもの」から人間の不気味な部分がひたひた伝わってくる。
普段、一生懸命説明しようとしてつまらなくなっている自分を反省。
そして私のかたわらには
シクラメンの花をあしらったプリント地のワンピースが
まるで蝉の抜け殻のごとく投げ出されており、
濃い闇と
大規模な工事現場の夜間照明に挟まれた
汚濁したままのうたかた湖の面は
コールタールのように
あるいは
欲望そのもののように
黒光りしている。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結8」170ページ)