第一版への序文
経済の状況はたえず変化しているものであるから、それぞれの時代にいきる人々が、めいめいのやり方で、自分の問題をみる。英国では、ヨーロッパ大陸の国々やアメリカと同じように、経済に関する研究が以前よりも活発なものとなっている。しかし、こうした活動から明らかになることは、経済学とは遅々とした、でも継続的な学問の一つであるということだけである。現世代が書いた論文は最高のものでも一目みて、昔の論文の執筆者とは対立するようにみえるものもあるかもしれない。しかし論文が適切な場所に落ち着き、角がとれてくると、学問が発達していくなかで、継続性を断ち切るような、真の裂け目となるものが含まれていないことに気がつくであろう。新しい説は古い説を補足し、拡充し、発達させていき、ときには修正することもあれば、強調事項を加えて異なる調子をあたえることもあるだろうが、めったに古い説をくつがえしたりはしない。(1ページ)
この論文は新しい論文の助けをかり、この時代の新しい問題について言及することで、古い説を新しい形で示そうとする試みである。その全般的な意図や目的は1巻でしめされている。一巻の終わりにある短い説明で、経済研究の主要対象からひきだされるものについて説明し、調査から生じる産物の主だった実際的なものについて説明している。英国の伝統にしたがえば、経済学の機能とは、経済についての事実を集め、並べてみて、分析することである。たくさんある原因のなかでも、なにが即座に、最高の効果を生じるのか決めていくときに、観察と経験に裏づけられた知識を用いることである。経済の法則とは、傾向について直接法で表現した文であり、命令文でかかれた道徳の教えではない。事実に関する経済の法則と論証は、データの一部にすぎない。現実的な問題を解決するとき、人生の指針となるかもしれないおきてをつくるとき、良心と良識によって、そのデータを論考すべきなのである。(2ページ)