丸山健二『千日の瑠璃 終結4』より十一月四日「私は徘徊だ」を読む
十一月四日は「私は徘徊だ」と「子どものいない夫婦によって ペットとして飼われているホルスタイン種の牛が ふと思いついて深夜に試みた」徘徊が語る。
丸山先生をどこか思わせる夫妻である。牛は飼ったことはないと思うが、大型犬を飼われていたとき、こんな脱走劇があったのでは……と想像してしまう。
以下引用文。そんな脱走を試みるペットの心情に、自分の理想とする生き方とのギャップを重ねた文が心に残る。
そういう満ち足りた環境から脱出したい……と思う心から、まず言葉が、文学の芽が生まれてくるものなのかもしれない。
何不自由ない暮らしと
惜しげもなく注がれる慈愛に
押し潰されるのではないかと危惧した牛は
降り注ぐ青々とした月光に刺激されて悶々とし
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』398ページ)