しかし道徳の力というものは、経済学者が考慮しなければいけない人々のあいだには存在する。「経済の人間」の行動という観点から、理論科学を構築しようとする試みがされてきている。経済の人間は、道徳の影響を受けないものであり、慎重に、かつ精力的に金銭の儲けを追求するものであり、無意識のうちにも自分本位に儲けを追求している。しかし経済の人間が成功した試しはないし、徹底して実践してみた試しもない。経済の人間は利己的だとみなされたことはないので、つらい労働に耐えるとも信じてもらえないし、家族のために備えるという私心のない願望を犠牲にするとも信じてもらえない。しかも、その動機にはいつも、家族の愛情があると暗黙のうちに見なされている。しかし、こうした家族への愛情があることが、私心のない動機があることが、なぜいけないのだろうか。その動機から起こす行動が、どんな階級においても、どんな時代においても、どんな状況においても、ある程度同じものであることが、なぜいけないのだろうか。その行動が世間の状態をだめにするのだろうか。そんなことはないように思える。この本では、ある状況で、ある産業グループの人が期待するような、平均的な行動が問題にされている。どんなものであれ、動機からくる影響をとりのぞくようなこともしていないし、私心のないものだからといって普通の行動をとりのぞくようなこともしていない。もしこの本に特徴があるとすれば、顕著な点は本そのものに由来するものであり、また継続の原則を用いたことにあるといえる。(さりはま訳)
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