痛みほど、すぐに忘れられるものはない。痛みがなくなると同時に、痛みの苦痛も終わり、痛みについて考えてみても、不安になることはもはやない。痛みがなくなったそのときに、自分自身で追体験できないのは、以前、心に抱いていたはずの不安や苦痛である。さらに友人からの偽りのない一言の方が、不安がいつまでも続く原因となるだろう。この一言が生じる苦痛とは、けっして言葉を介してではない。最初に私たちを悩ませるものとは、感覚をとおしてとらえた対象ではなく、想像力という思考力なのである。その思考力とは不安の原因になるものだから、それゆえ時が経過して、他にも事が起きて、想像力という思考力を記憶からある程度消し去るまで、想像することで想像力が心のうちを浸食し続け、傷がうずく。(1.Ⅱ.10)