こうした類の愛情に、ぴったりと共感することはない。特定の人に情熱をいだくということを、想像することもない。それでも同じような種類の情熱をいだいたとき、あるいは、そうした情熱をもちたいと思うようなとき、すぐにこうした期待の高ぶりを体験するが、それは満足からくる幸せであり、絶望におそれおののいたときに味わう失意と同じようなものである。情熱に心ひかれるわけではない。希望や怖れ、あらゆる種類の絶望など、心をとらえる他の情熱へのきっかけとなる状況に興味をいだくのである。同じようにして航海について語るときにも、私たちの心をとらえるのは飢えではなく、飢えから生じる絶望なのである。愛情で結びついた恋人の気持ちを同じようにして追体験することはないが、その結びつきからロマンチックな幸せを期待する恋人たちの気持ちに、私たちもやすやすと合わせていく。状況によっては、怠けにかられて弛緩してしまう心の持ち主もいる。また荒々しい欲望に疲れた心の持ち主もいる。そうした人が、静かで平穏な生活に憧れることは仕方がない。悩ましい情熱に満足しながら、そうした生活を見いだそうと望むことも当然なのである。のどかな静けさと安らぎにみちた生活について考えることもやむを得ない。優雅で、優しく、情熱的なティブルスも、そうした生活について語ることに大きな喜びを感じている。それはギリシャ神話の黄泉の国「幸福の島」で詩人たちが語るような生活である。友人に囲まれて、自由に安らげる生活であり、労働からも、心配事からも解放され、その結果、荒れ狂う情熱すべてから解放された生活である。こうした舞台のなかでも私たちを最もひきつける場面とは、楽しみのある生活ではなく、期待のもてる生活として描かれているものである。この情熱というものは愛と混じり合いながら、おそらくその基盤となるものである。満足から程遠いものであったり、少し距離のあるものであるとき、その情熱は消失してしまう。だが、すぐに心を動かすものとして語るときには、その情熱が総攻撃をかけてくる。幸せな情熱とは、この見方によれば、怖ろしいものであり憂鬱なものでもある。自然なものであり、好ましいものである希望をくじくものが何であれ、私たちは震えてしまう。つまり、このようにして味わうものが、恋人についての不安であり、心配であり、絶望である。(1.Ⅱ.16)
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