経済学の法則とは、ある状況のもとで、人間がとる行動について述べたものである。また経済学の法則は、物理学と同じような意味で、仮説に基づいたものである。こうした法則は状況の様子を含むものであり、状況を示すものある。しかし、物理学より経済学のほうが、状況を明確にすることが難しく、失敗した場合には危険をともなう。人間の行動の法則は、引力の法則ほど単純でもなければ、明確なものでもなく、確かめられるほどはっきりしたものではない。だが、その行動の多くは、複雑な内容を扱う自然科学の法則として位置づけられるものなのかもしれない。(1.Ⅳ.2)
独立した科学として経済学が存在する理由(レゾン・デートル)は、経済学がもっぱら取り扱う人間の行動とは、そのほとんどが予測できる動機のもとにあるからである。そのため経済学は他の学問よりも、推論と分析を計画的に行うときに役立つ。どんな類の動機であれ、動機が高尚なものであろうと低俗なものであろうと、そのままの状態では動機を測定することはできない。測定が可能になるのは、動機から生まれて発展していく力を計るときだけである。お金とは、動機から生まれて発展していく力を完全に測定できるものではない。また現在の状況について注意深く考慮することもなく、話題にあがる金持ちや貧乏人の行動について検討することがなければ、お金が格段によい手段になるわけではない。だが慎重に警戒しながらであれば、お金によって、動機を生じて推進していく力というものをはかることができる。そしてその動機によって、人間の生活はつくられていくのである。(1.Ⅳ.3)