サキ 「耐えがたきバシントン」 13回 2章

 

「鞭でぶつのは、ほんとうは君の番ではない」彼は言った。

 「知っているとも」コーマスは言うと、丈夫そうな鞭を指先でもてあそんだが、優しく鞭を取り扱う様子は、まるで敬虔なヴァイオリン奏者がストラディバリウスをとり扱うときのようだった。「グレイソンにミントのチョコレートを少しあげて、僕が鞭でぶつのか、それともグレイソンがぶつのかコインを投げて賭けることにした。そうしたら僕が勝った。彼にはわりと礼儀正しいところがあって、チョコレートを半分返してくれた」

 コーマス・バシントンが会得した滑稽な快活さとは、仲間うちでの人気をはかるものではあったけれど、その快活さをもってしても、学生時代に接した歴代のボスから慕われることにはならなかった。面白がらせ、楽しませた相手とは、ユーモアを思いのままに解することができ、救いのある性質の持ち主ではあったものの、自分の責任の範疇から彼が消えたときに吐息をつき、それは安堵からくる吐息であって、悲しんでの吐息ではなかった。彼について知れば知るほど、また経験を積めば積むほど、自分たちがかかわる必要のある領域の外にいる者だと思うようになった。嵐を扱うように訓練をつみ、嵐の接近を予感しながら、さらに嵐の影響を極力少なくしようとする者ならば、竜巻にあらがおうとすることに躊躇いを感じるとしても、許されるものかもしれない。

 

 

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