サキ 「耐えがたきバシントン」 17回 三章

ある11月の午後、以前であれば年代記にのせられてもいいような出来事から二年が経過し、フランチェスカ・バシントンは、友人のセレナ・ゴラークリィの部屋に大勢集まった人々の舵をとり、顔をだすときには曖昧に見知った様子でうなずいたが、その目は特定の一人に焦点をおいていた。国会は秋の開会のためにエネルギーをあわせ、両方の政党とも群衆のなかで代表を立派につとめていた。セレナは悪意のないやり方で、多少なりとも名のしられた男や女を大勢招待したが、その望むところとは、長い間、そうした人々を一緒にしておけば、「サロン」を形成するかもしれないということだった。それと同じ本能の追求から、サリー州に余儀なく引き下がることになった別荘にボーダーガーデンをつくり、いろいろな球根をうえては、その結果をオランダ風庭園と呼んだ。不幸なことに輝かしい話し手を家に招いたからといって、相手がいつも輝かしく話してくれる訳ではないし、まったく話さないということもある。さらに悪いことに、言わないでおいた方がいいようなことまで含めて、馬鹿がすべての話題に首を突っ込んで、ムクドリのような声をだすことは規制出来ない。フランチェスカが横を通り過ぎた或る集団は、スペインの画家について論じていたが、四十三歳で、若い頃には、カンバスに数千枚におよぶ大量の四角を描いていたこの画家について、ロンドンでは誰も数ヶ月前まで聞いた者はいなかった。今、ムクドリのような声は、どんな些細なことでも知らないといけないと心を決めたかのように思えた。三人の女性は、その画家の名前の読みを知っていたし、ある女性はその画家の絵を見るたびに、森に行って、祈りを捧げなければいけないと常に感じていた。別の女性は、のちの絵の構成には、ザクロが常に置かれるようになることに気がついていた。弁護の余地がないカラーをつけた男は、ザクロが「意味する」ものを知っていた。「この画家のすばらしいところは」肉づきのいい女性が挑戦的な、大きな声でいった。「芸術学会が賛意をしめすものを全部保ちながら、学会に挑んでいくやり方にあるわ」「たしかに。でも、こんなことを考えたことはーーー」ひどいカラーの男がさえぎるなかで、フランチェスカは一心不乱に突き進みながら、耳が聞こえないという苦痛のなかで、人々は何に苛立っているのだろうと怪訝に思った。

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