用心深く、抑えた声音だがコートニー・ヨールのむかいから、女性の声が聞こえてきて、ブリッジの札を積み上げてつくった建物をくずした。
「お金をたくさん持っているし、見苦しくもない。これからの若い政治家にぴったりの妻よ。行動にでなさい。金持ちの花嫁をねらっている誰かさんに奪われる前に、あの娘を勝ちとるのよ」
ヨールと世の知恵にたけた指導教官はテーブルのむこうを見つめ、真面目で思慮深い瞳をした、静かにしていることに過敏になりすぎた様子の、レオナルド・ダ・ヴィンチの娘を見つめた。フランチェスカは縁結びをしようとしている隣人に怒りがこみあげてきて、そのせいで動悸がはやくなりながらも、「どうしてなんだろう」と自らに問いかけ、「自分でつくす志もなければ、目的もないような女たちときたら、まあ、ひと様の恋にただおせっかいを焼くのが好きな女は別として、こうした類の企みや悪らくらみに手をかすのかしら、そこにはひとりの幸せがかかっていると言うのに」さらにはっきりと彼女が理解したのは、自分がコートニー・ヨールを嫌っているということだった。彼のことを忌々しい影響をおよぼす者として嫌っているのは、息子の前でこれ見よがしの野心の手本を示すけれど、その野心に息子が全然ついていかないせいでもあり、また金遣いのあらいお洒落のお手本をしめしたところで、息子には自信がありすぎて真似をしないせいでもあった。