「あの女性といると、昔、読んだ詩句が思い出される。私はその詩句が好きだったものだ」ヨールがそう思ったとき、ジョワイユーズは歩道のかたわらにたたずむ観察の鋭い人物に気がつき、軽やかな緩い駆け足で駆け出していた。「ああ、今でも覚えている」
そして声にだしてその詩句を引用したが、それは人々が緩い駆け足をさせるときの陽気さだった。
「どれほど貴女のことを愛していたことか
なかでも哀しいときにうかべてみせる微笑みを
優しく仄めかしてみせる微笑みを
太陽と春を仄めかしてみせる微笑みを
だが、ほかのなによりも
言葉には言い表せない憂鬱を」
レディ・ヴーラがこの引用に気をとられているあいだに、彼は自分の心から彼女を追い出した。彼女は女らしい気持ちから彼のことを思い、端正な顔立ちや若さ、悪態をつく弁舌のことを考えて午後まで過ごした。
ヨールがロトントウ通りの楡の木の下で、ジョワイユーズの足並みを試しているとき、彼にとって少なからず関心のある小さな劇が、数百ヤードも離れていないところで演じられていた。