この爽やかな五月の午後、こうして木々の下にいるということは、とても楽しいことであった。さらにエレーヌは幸いにも確信していたが、手の届くところにいる女性の誰もが、自分の傍らに腰かけた、整った顔立ちをした陽気な若者とのつきあいのことで羨むだろう。ある種の自己満足を感じながら、いとこのスゼットを観察したことがあるが、スゼットは婚約者から献身的につくされるのを意識しながら、あまり有頂天にはなっていなかった。その婚約者とは、真面目そうな青年で、河の南側で発行されるピープル誌のなにやらを管理していたが、コーマスに言わせれば、その服装は怒りを表現する記者というよりも、いかにもテムズ南岸のサザック製という感じのものだった。人生における喜びのほとんどは支払いを求められるものであり、やがて椅子の切符の売り子がペニーを稼ぎに姿をあらわした。
コーマスは売り子にコインの寄せ集めから支払い、手のひらのうえで残りのコインの重さをはかった。エレーヌはこれから何か不快なことが起きようとしているのを察知したので、頬の赤みが濃くなった。
「なにか?」エレーヌはそっけなく返すと、彼の資金についての話には関心がないという態度をあきらかにした。おそらくは、と彼女は急いで考えた。他の借金のことを切り出すほど、彼も愚かではないだろう。
「トランプの借金ときたら憂鬱になる」コーマスは宿命であるかのように、その話題をつづけた。
「先週、7ポンド買ったわよね」エレーヌは確かめた。「負けの穴埋めをするために、そのお金をとっておかなかったの?」
「4シリング7ペンス半ペニーは、7ポンドから残された守りだよ」コーマスはいった。「残りはいつのまにか減った。もし今日2ポンドあれば、勝ってなんとかなるけどなあ。今、いいカードを持っている。でもクラブに姿をみせないと、もちろん払うことも出来ない。僕が欲しいものがわかるだろう」