サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅸ章99回

エレーヌがスゼットを見下すのはもっともなことではあるが、それでも、とにかくスゼットには思いやりのある優しい恋人がいた。エレーヌは公園の門の方に歩いていきながら、スゼットが持っている大切なものが、自分を落ち着かなくさせるのだと思った。そのとき門のところで、家路につこうとしているジョワイユーズと粋な恰好の乗り手に出会った。「ジョワイユーズから降りて、どこか昼食に連れて行ってくださらないかしら」エレーヌは誘った。「喜んでご一緒しますとも」ヨールは言った。「コリドールのレストランへ行こう。そこにいる給仕頭はウィーンで知り合った旧友で、よく面倒をみてもらっている。あそこには女性連れて行ったことがないから、きっと後で訊かれるだろうけど。父親らしい気持ちにかられてのことだ。婚約しているのかってね」

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