チェスタトン「マンアライヴ」一部一章第33回

アーサー・イングルウッドは、この愚かしい場の背景のなかに埋没していたのだが、その言葉にびくりとすると、近視の目を細め、襟のカラーをわずかに高くして、相手を凝視した。

「なんとまあ、そこにいるのはスミスじゃないか」彼は、若々しい、まるで少年のような声で叫んだ。そしてしばらく見つめると、「でも自信はないけれど」と言った。

「名刺ならある…はずだ」見知らぬ男は、なぜだか分からないが、重々しい口調でいった。「その名刺には、僕の本当の名前も、肩書きも、勤務先も、この地球上における真の目的も書かれている」

彼はゆっくりと、チョッキの上のポケットから緋色の名刺入れを取り出すと、これまたゆっくりと大きな名刺を見せた。見せられているそのときですら、彼らが想像したのは、とても奇妙な形の名刺で、通常の紳士の名刺とは異なるものだろうということだった。だが、名刺がそこにあったのはほんの数秒間だけだった。アーサーへと渡されると、どういうわけか彼の手からすべり落ちてしまったからだ。耳障りで、凄まじい勢いの大風は、見知らぬ男の名刺を運び去り、この世の不要の紙の山に加えてしまったからだ。こうして強い西風は家全体を揺さぶると、過ぎ去っていったのだった。

 

Arthur Inglewood, who had sunk into the background of this scene of folly, started and stared at the newcomer with his short-sighted eyes screwed up and his high colour slightly heightened.

“Why, I believe you’re Smith,” he cried with his fresh, almost boyish voice; and then after an instant’s stare, “and yet I’m not sure.”

“I have a card, I think,” said the unknown, with baffling solemnity—”a card with my real name, my titles, offices, and true purpose on this earth.”

He drew out slowly from an upper waistcoat pocket a scarlet card-case, and as slowly produced a very large card. Even in the instant of its production, they fancied it was of a queer shape, unlike the cards of ordinary gentlemen. But it was there only for an instant; for as it passed from his fingers to Arthur’s, one or another slipped his hold. The strident, tearing gale in that garden carried away the stranger’s card to join the wild waste paper of the universe; and that great western wind shook the whole house and passed.

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