チェスタトン「マンアライヴ」一部五章第126回

「私もその記録を見ました」ウォーナーはしかつめらしく言った。「この話がすべて正しいことは請け合います」

「私の感じるところ、もっとも男らしくないと思えるのは」アメリカの医師はつづけた。「ひっきりなしに、無邪気を一心不乱によそおって、無垢な女をだましていることです。この想像力ゆたかな悪魔が訪れたことのある家はすべて、哀れな娘が一緒に連れ去られています。あの男の目は、相手に催眠術をかけてしまうそうです。他にも妙な特徴があるそうです。そういうわけで娘たちは、自動人形のようになって行ってしまうとか。こうした可哀想な娘さんたちがどうなったものやら、誰も知る者はいません。私の考えをあえて申し上げれば、殺害されているでしょう。こうした件以外にも、たくさんの例があるからです。彼は殺人に手をかしているのです。それなのに法で裁かれたことがないとは。とにかく、我々の現代的な調査方法をもってしても、可哀想な娘の痕跡は見つかっていません。そうした娘さんたちのことを考えると、いつも私の胸はいたむのですよ、ミス・ハント。私が申し上げたいのは、ウォーナー先生が話された事だけです」

「そういうわけで」ウォーナー医師は言うと、大理石に刻んだような笑みをうかべた。「あなたの電報にたいして心から感謝を申し上げます」

 

“I have seen them,” said Warner solidly, “I can assure you that all this is correct.”

“The most unmanly aspect, according to my feelings,” went on the American doctor, “is this perpetual deception of innocent women by a wild simulation of innocence. From almost every house where this great imaginative devil has been, he has taken some poor girl away with him; some say he’s got a hypnotic eye with his other queer features, and that they go like automata. What’s become of all those poor girls nobody knows. Murdered, I dare say; for we’ve lots of instances, besides this one, of his turning his hand to murder, though none ever brought him under the law. Anyhow, our most modern methods of research can’t find any trace of the wretched women. It’s when I think of them that I am really moved, Miss Hunt. And I’ve really nothing else to say just now except what Dr. Warner has said.”

“Quite so,” said Warner, with a smile that seemed moulded in marble—”that we all have to thank you very much for that telegram.”

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