チェスタトン「マンアライヴ」一部五章第141回

「見ろ!」折れた投げ槍を空中に振りかざしながら、彼は言った。

「ビーコン・タワーを囲む槍が、その塔を守ろうとしている。もともとの場所から飛んでくるそ。ああ、こうした場所で、こんな時間にひとりで死ぬなんて、素晴らしいことじゃないか」

 彼は太鼓のような声で、ロンサールの高貴な詩句を朗々と諳んじた。

「神の名誉のために、我が王子の権利のために、この地で勇気をふるいおこせよ」

「生きているもののために」アメリカの紳士は、畏怖の念にうたれながら言った。

 それから彼はつけ加えた。「ここには狂人が二人いるのか?」

「いや、五人いる」ムーンは大声で話した。「スミスと私だけが正気なんだ」

「マイケル!」ロザムンドは叫んだ。「マイケル、どういうことなの?」

「愚かしいことだということだよ」マイケルはうなると、庭のむこうへ彩色された槍を飛ばした。「医師も愚かしいし、犯罪学も愚かしい。アメリカ人も愚かしい。ビーコンの高等法院よりも、ずっと愚かしいということだよ。君たちは愚かだよ。イノセント・スミスは、木の鳥ほどに狂ってもいないし、悪くもない」

 

“See!” he cried, brandishing this broken javelin in the air,
“the very lances round Beacon Tower leap from their places to defend it.
Ah, in such a place and hour it is a fine thing to die alone!”
And in a voice like a drum he rolled the noble lines of Ronsard—

“Ou pour l’honneur de Dieu, ou pour le droit de mon prince, Navre, poitrine ouverte, au bord de mon province.”

“Sakes alive!” said the American gentleman, almost in an awed tone.
Then he added, “Are there two maniacs here?”

“No; there are five,” thundered Moon. “Smith and I are the only sane people left.”

“Michael!” cried Rosamund; “Michael, what does it mean?”

“It means bosh!” roared Michael, and slung his painted spear hurtling to the other end of the garden. “It means that doctors are bosh, and criminology is bosh, and Americans are bosh— much more bosh than our Court of Beacon. It means, you fatheads, that Innocent Smith is no more mad or bad than the bird on that tree.”

 

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