チェスタトン「マンアライヴ」一部五章第144回

 彼はまだそこにもたれかかり、あいかわらず無意味な態度をとりつづけ、肘を格子戸についていた。だが彼はその声を急にかえた。これが三度目だ。疑似英雄詩を朗じる声から、人間らしく腹をたてている声へと変わり、そして今、法律家が法律上の有益な助言をあたえるときのような、うわべだけ鋭い声へと変わった。

「おばさんだけじゃないんだ、できれば、この家を静かにしておきたいのは」彼は言った。「僕たちも、できることなら、この家を静かにたもちたい。大げさな申し立てには気をつけた方がいい。それが今回の事件の骨格だから。こちらの科学に詳しい紳士方が、高度に科学的な誤りをおかしたせいだと思っている。スミスにはやましいところはない。キンポウゲの花と同じくらいに。もちろん、キンポウゲの花は、個人の家に装填した銃を持ちこんだりしないだろう。そこには説明を必要とする事情があるにちがいない。でも僕のみたところ、隠された事情とは馬鹿げた誤りか、冗談なのか、なにかの寓意か、事故なのだと思う。かりに僕がまちがっているとしても、僕たちは彼を抑えているし、しかも五人の男がかりで拘束している。これから彼を留置場に連れて行くべきなのかもしれない。でも僕の言っていることが正しいとしたら、どうしますか。人前で内輪の恥をさらすことになってもいいのですか?」

 

“It isn’t only your aunt who wants to keep this quiet if she can,” he said; “we all want to keep it quiet if we can. Look at the large facts—the big bones of the case. I believe those scientific gentlemen have made a highly scientific mistake. I believe Smith is as blameless as a buttercup. I admit buttercups don’t often let off loaded pistols in private houses; I admit there is something demanding explanation. But I am morally certain there’s some blunder, or some joke, or some allegory, or some accident behind all this. Well, suppose I’m wrong. We’ve disarmed him; we’re five men to hold him; he may as well go to a lock-up later on as now. But suppose there’s even a chance of my being right. Is it anybody’s interest here to wash this linen in public?

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