『ロドリング あるいは 呪縛の塔』
著者:サド
訳者:澁澤龍彦
初出:1800年「恋の罪、壮烈悲惨物語」
「恋のかけひき」角川e文庫に収録
サドと聞いたときの大方の反応は、「気持ち悪い」「痛そう」「ヘンタイ作家」と芳しくないものがある。だが本作品も、そうしたイメージをくつがえす作品であり、読後、いろいろ考えるところが多い作品である。
本作品の主人公スペイン王ロドリグは、現代の北にいらっしゃる将軍のように残虐非道、女性についても多々悪事を繰り返している男である。
父ジュリアン伯の留守中、美しい娘フロランドは、「情愛の実をつくすよりも女の最後のものを奪うことにのみ性急」と描写されるロドリグのものにされてしまう。嘆き悲しんだフロランドは父に手紙を書き残し、命を絶つ。
ジュリアン伯はモール人の皇帝と共にロドリグを追いかける。
金にも困りはじめたロドリグは、莫大な宝が埋蔵されているという「呪縛の塔」へと入る。そこで待ち受けていたのは、彼が殺したはずの者たちやフロランドをはじめとする女たち。死者たちに驚かされてもロドリゲスは怯まず、塔のなかで旅をつづける。
最後に試合を挑んできた戦士と一騎打ちになり、槍をとられてしまう。その戦士の顔をみたロドリグは驚く。戦士は自殺したはずのフロランドだった。
ロドリグはとんでもない男なのだが、なぜかとても恰好いい。例えば「お前は破滅だ」と宣告される場面で、ロドリグはこう答える。
「それこそすべて生ある者の必然の運命ではないか。そんなことをおれが怖がるとでも思うのかね?」
…また、「あの世で何がお前を待っているか知っているか?」と脅かされても、
「そんなことは、おれにとってはどうでもいいことさ。すべてに挑戦するのがおれの信条だ」
ただ、ただ恰好いいのです。
またロドリグが天文学に興味をいだき、真理を愛する男でもあることは以下の言葉からもわかる。
「おれの眼をおどろかしむるそうしたすべての天体の仕掛を、ひとつ歪曲をつくして説明してはくれないか…何しろ迷信家でおまけに根性曲がりのわが司祭どもときた日にゃ、おれたちに荒唐無稽のことしか教えてはくれなかった、真理なんぞは薬にするほども、やつらの口からもれたためしはなかったものだ」
残虐なのに審理を愛する男ロドリグ、彼を殺害したのは、騎士に扮した娘フロランドだった…という設定も、サドが「女性はかくあるべし」という当時の常識をまったく念頭においていない作家だったということではないだろうか?
あらためてサドの魅力を感じた作品だった。
読了日2017年8月3日