『オーギュスチィヌ・ド・ヴィルフランシュ あるいは恋のかけひき』
作者:マルキ・ド・サド
初出:
訳者:澁澤龍彦
レズビアンの女性に惚れた若者が、相手の心を獲得しようと娘姿に女装する…という何処か喜劇めいたところがある作品。
レズビアンの娘が、自分の嗜好を冷笑する社会をこう批判する言葉はサドの心からの言葉ではないだろうか。なんとも恰好いい言葉である。
「風変りな趣味の持主を嘲笑することは、母親の胎内から片目かびっこで生まれて来た男や女を冷やかすのと同じくらい、ぜんぜん野蛮なことですよ」
「自分にない欠点を嘲笑することには、自尊心を満足させる一種の快楽があるのね。そうしてこうした慰みは、人間、ことにも馬鹿な人間にとっては、言おうようなく心よいものと見えて、一度覚えたら捨てがたいらしいのね」
「おまけにこうした代償を払って彼らは進んで烏合の衆となり、個人―つまりその最大の欠点が一般の人間のような考え方をしない人間―を踏みつぶそうと徒党を組むのだわ」
もしタイムマシンがあれば、サドと会って話をしてみたい。サドとは、そんな気持ちにさせる作家である。まあタイムマシンは無理だから、せっせとサドの著作を読むとしよう。
読了日:2017年8月27日