「山月記」
作者:中島敦
初出:1942年文學界
文豪ノ怪談ジュニア・セレクション
東雅夫氏によって丁寧に注がつけられた文豪ノ怪談ジュニア・セレクションは、原典を読むのも楽しい、注を読んでこういう解釈があるんだなあと知るのも楽しい。今まで注を読みとばすことが多かった私に「注」読書の楽しみを教えてくれた。
「山月記」でも、原典となっている中国の伝奇小説「人虎」との違いについても、詳細に注がほどこされている。
兎を食べたと告白をする場面。注によれば、人虎伝では、兎ではなく、人間の女性を殺して食べ、「殊に甘美」だと感じたとなっているという。中島敦は、まだ人間の理性をたもった状態で書きたかったのだと納得。
これも東氏の注によれば、中島敦は最後を「再びその姿を見なかった」で終わらしているが、「人虎伝」ではこのあと、友人が李徴の妻子に使いを送り、後に遺児と対面、自らの財産を分け与えたという後日談があるとか。虎が姿を消したシーンで、あえて物語を断ち切ることで、深いが余韻が醸し出されている…という東雅夫氏の注のおかげで、中島敦の意図がよく分かったように思う。
「山月記」も面白いが、東雅夫氏の注も面白い。今度、「人虎伝」を探して読まなくては…。
読了日:2017年10月5日