『ジェミニー・クリケット事件』
作者:クリスチアナ・ブランド
初出:EQMM、1968年8月
創元推理文庫
深町真理子訳
今週末に予定しているクリスチアナ・ブランド「ジェゼベルの死」読書会にあわせ、この短編もぜひ語りたい…という意見がでて、急遽、課題本に加えたのが先月末。
犯罪者の子供、被害者の子供の面倒を見てきた善意の弁護士ジェミニーが最上階にある部屋で密室状態で殺害される。ジェミニーは椅子に縛りつけられ、ナイフで背中を刺され、机の書類には火が放たれた状態だった。
事件を語るのはジェミニーに面倒を見てもらった子供たち(ジェミニー・クリケット)のひとりで、今はジェミニーと共に働く弁護士のジャイルズ。その話に耳を傾けるのは少し記憶力が減退してきたという老人。この二人の会話が一見のどかな庭園で繰り広げられていく…のだが、この二人の会話がだんだんどことなく異様さを増していく感じが怖い。
それから、きらきらした老獪なまなこが、ふたたびジャイルズのこわばった面に向けられた。「どうだ、すごく熱くなって、いまにも火がつきそうなんじゃないかね?」
「氷のように冷たくなりかけていますよ」自らもひどく冷ややかに、ジャイルズは言った。
最後、英国版ではそれとなく二人の関係を仄めかして終わる。アメリカ版では、はっきり分かりやすく二人の関係を説明している…想像するから怖いのであって、はっきり書いてしまえば怖くないではないか。私は英国版の方がいい。
ただ怖さを出している点は良いけれど、ジェミニーの援助のおかげで弁護士になったジャイルズが悪い血の遺伝に影響されていく…という発想も嫌だし、無理があるのではなかろうか…というよりも顰蹙ものの発想ではなかろうか?それから煙の中で立っていたら意識が朦朧としてくるのでは…と疑問も残った。
2017年12月4日読了