『オカアサン』
作者:佐藤春夫
初出:大正15年(1926年)10月「女性」
その男はまるで仙人のやうに「神聖なうす汚さ」を持ってゐました。指の爪がみんな七八分も延びているのです。それがしきりに私に白孔雀の雛を買えとすすめるのですから、わたしはお伽噺みたやうなその夜の空氣がへんに気に入ってしまつたのです。
こうした出だしで『オカアサン』は始まる。「神聖なうす汚さ」って何?と思わず考えたくなって読んでしまう。
「私」が買ったのは孔雀ではなく、鸚鵡だった。その鸚鵡の発する言葉を手がかりに、「私」は鸚鵡の前所有者についてあれこれ想像していく。
見えない登場人物について、鸚鵡の言葉だけを手掛かりにして具体的に考えていく面白さ。鸚鵡の言葉から可愛らしい子供のいる一家の様子がありありと浮かんでくる。
なぜこんなに子供が可愛がっていた鸚鵡を手放したのか…その想像は鮮やかである。
鸚鵡の言葉を手掛かりにこんな物語が出来るとは…見えないものを描く佐藤春夫の想像力はすごい…もっと読んでみたいと思う。
読了日:2018年1月1日