“THE SAME DOG”(『同じ犬』)
作者:ロバート・エイクマン
英国怪奇幻想小説翻訳会で、今月から6回に分けて取り組むTHE SAME DOGだが、とりあえず年末年始に最後まで訳してみた。ネット上の他の方々の感想を見れば、「怖い」と語る方もいれば、わりと多いのが「最後がつまらない」。
でも、どうとも解釈できる部分もあり、次の場面につながる視覚的な場面もあり…私自身は結構気に入った…と書かないと、しばらくチェスタトンを忘れて訳したのがむなしいもの。
英国サリー州に住むヒラリーという少年が主人公。このサリーという地も、何か意味があるのかもしれない…ハリーポッターの舞台だし。またヒラリーという名前も、男にも、女にも使える名前で、この曖昧な感じが、どうとでも解釈できるこの作品につながっているのかも?
ちなみにヒラリーの名前の由来になっている聖ヒラリーは、フランスの聖職者で、アリウス主義に反対した聖人だそうだ…このあたりも作品とどこか関係があるのかもしれないが、よく分からない。
ヒラリーが母をなくし、男兄弟のなかで育ったことも、女子の生まれない家系であることも、エイクマンは意図するところがあって書いたのかも?ヒラリーと親しくなるメアリーの存在を強調するためだろうか? メアリーもよくある名前だが、聖母マリアを意味する名前でもある。母を亡くしているヒラリーにとっての親友メアリーのイメージを与えようとしているのではないだろうか?
ヒラリーと活発なメアリーが仲睦まじく戯れる場面は印象深い。とりわけメアリーが、ヒラリーの首筋に唇をはわせる場面は、その後のメアリーの運命を示唆しているようでもある。またメアリー自身が吸血鬼とかいった類の不思議な存在である可能性を示唆しているようにも?
ヒラリーとメアリーは二人してサリーの田舎を散策し、フェアリーランド、ジャイアンツランドという地図を描いていく。これも最後にでてくるメアリーランドとのつながりでは?
ヒラリーとメアリーは探索中に幽霊屋敷のように朽ちかけた家に遭遇し、黄色い肌の、毛がない犬に吠えられる。最初怯えていたメアリーを、ヒラリーが無理やり連れて行くのだが、途中で立場が逆転する。
黄色い犬とメアリーがたがいを見つめあった瞬間、メアリーの心に何かスイッチが入ってしまった。もうメアリーは怖がらず、今度はヒラリーの方が怯える。無理やりメアリーを連れて帰ろうとしたとき、ヒラリーは屋敷の屋根のうえに頭のはげた男がいることに気がつくが、なぜかメアリーには言えない。
このあと場面はいきなり急転換。ヒラリーはベッドに横たわり、看病をうけている。周囲はメアリーのことをけっして語ろうとしない。ヒラリーはようやくメアリーが死んだことを、全身を切り裂かれ、噛みつかれて死んだことを知る。
このあとも場面は急転換。二十年が過ぎ去り、第二次世界大戦後である。ヒラリーの二人の兄たちは大学に進学しないで軍隊へ、それぞれが家庭と二人の男の子供をもうけ独立している。
ヒラリーは軍の友人カルカットを連れて、休暇中に実家に戻る。そこでメアリーの話をしたところ、カルカットはその犬は射殺されたのかと訊くが、ヒラリーには分からない。そこで二人が幽霊屋敷を訪れたところ…。
ヒラリーとメアリー、どことなく響きが似た名前だが、死んだのはメアリーなんだろうか?それにしては記述が曖昧。もしかして死んだのはヒラリーの方で、あとの幻想はヒラリーの幽霊が見たものということはないだろうか? 幽霊の視点で語る…ということはないかもしれないが。あるいはメアリーという女の子はそもそも存在していなくて、孤独なヒラリーの想像の産物とか?
どこからどこまでが現実で、どこからが想像なのか…この曖昧な感じがいいなあと思うのだけれど、それはただ単に私が無知なだけかもしれない。
背景にはいろんな深い意味がありそうなこの作品、のんびり半年かけて一緒に読んでいきたい方は、気のむくときの参加でかまいませんのでぜひご連絡を。翻訳しない参加も歓迎です…と宣伝して、ようやく通常モードへ。
読了日:2018年1月8日