2018.01 隙間読書 芥川龍之介『手巾』

『手巾』

作者:芥川龍之介

初出:1916年(大正5年)10 月「中央公論」

青空文庫

ツィッターで初版道さんがこの作品について「三島由紀夫は『芥川の短編小説の「いくつかは、古典として日本文学に立派に残るものである』とし、『もっとも巧みに作られた物語』に『手巾』を挙げ、短編小説の極意と評価。一方、田山花袋は同作を『かういふ作の面白味は私にはわからない。何処が面白いのかといふ気がする』と語り、実に両極端です」と紹介されていたのに興味を覚えて読む。

アメリカ人の妻をもつ長谷川という帝大教授がベランダの岐阜提灯を眺めながら読書をしていると、西山という婦人が訪ねてくる。その婦人は、長谷川の教え子の母で、その教え子は一週間前に亡くなったのだと言う。

そう語りながらも微笑みをうかべている婦人に疑問を感じながら、長谷川が物を拾おうと身をかがめたとき、その婦人の手がふるえ、にぎっていた手巾を裂かんばかりであることに気がつく。

妻に武士道について語り満足する長谷川。彼は西山の母親の名刺をはさんであったストリンベルクの本を開くと、このような言葉が書かれていた。

私の若い時分、人はハイベルク夫人の、多分巴里から出たものらしい、手巾のことを話した。それは、顔は微笑してゐながら、手は手巾を二つに裂くと云ふ、二重の演技であった、それを我等は今、臭味(メツツヘン)と名づける。…

お盆につかう岐阜提灯が飾られたベランダ。そこに訪ねてきた死んだ学生の母。その母の名刺がはさまれた頁には、母の気持ちを語るようなストリンベルクの言葉。母が訪ねてきたのも、意味ありげな言葉が書かれている頁に母の名刺がはさまれたのも、そこにはすべて亡くなった学生の影が感じられるのだが。

この作品を武士道と関連すけて書いている人が多いようだが、私は亡くなった学生が愛していたストリンベルクの言葉を、自分の母をとおして敬愛する先生のまえで演出して別れを告げた作品のようにも感じられた。

読了日:2018年1月12日

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