作者 ゴーゴリ
訳者 小平武
「世界幻想文学大全 怪奇小説精華」収録 筑摩書房
迫力のある怖さがありながら、それでいてユーモラスなロシアの作品である。ゴーゴリがこういう怖い、でも面白い…という作品を書く作家だったとは知らなかった。
哲学級生(?…と言うらしい)ホマーは、ある晩、魔女を乗せて疾走する夢を見る。夢の中で魔女を叩きのめすが、気がつくと魔女は美女に変わっていた。
やがてホマーは百人長(?…コザックの中尉らしい)から、娘が死ぬ間際にホマーに祈祷をあげてもらいたいと言っていたからと呼ばれる。
娘の屍が安置された教会に一人残されたホマーは怖ろしい体験をする。棺は宙を舞い、娘が棺から立ち上がり近づいてくる。ホマーは負けじと悪魔払いの呪文を唱える。こうやって悪魔から身を守るのかと感心、なんとも迫力のある場面である。
彼女はまっすぐこちらに歩いてくる。恐ろしさに震えながら彼は自分のまわりに環を描いた。必死になって祈祷書を読み、悪魔ばらいの呪文を唱え始めた。それは生涯わたって魔女や悪霊を見続けたという、ある修道僧から教わった呪文だった。
彼女はほとんど環の上に立った。けれども、そこを踏み越える力はないらしく、全身、死後なん日かたっている屍体そっくりの青さになった。
二夜、教会で悪魔と戦ったホマーはもう無理と逃げ出そうとするが、捕まってしまう。最後三日目の悪魔払いをさせられる羽目に。悪魔は最後の切り札としてヴィイを連れてくる。見てはいけないと思いつつ、ホマーはヴィイを見てしまう。その瞬間、すべての魔物が襲いかかってきて、ホマーはあまりの恐ろしさに息絶えてしまう。
この恐ろしい場面のあと、一番鷄を聞き逃した魔物たちが逃げ遅れて、扉や窓にはりついてしまう。想像すると怖いけれども、どこかユーモラスな感じもあって、ゴーゴリの作品にはまりそうな気がする。
鶏の鳴き声が響き渡った。それはもう二番鷄であった。一番鷄を魔物どもは聞きのがしたのだ。びっくりした悪霊どもはわれ先に窓や扉口へと殺到し、できるだけ早く逃げ出そうとしたが、時すでに遅かった。彼らはそのまま扉や窓にはりついたままになってしまった。
「哲学級生」、「百人長」、「火酒」…どういうものかは分からないけれど、想像力をかきたてられる訳も読んでいて楽しかった。はっきり分からない訳というものも良いものだと思った。
2018年3月26日読