The NYT「ドーナッツで貧困を打ち負かした一家の物語」さりはま

Doughnuts Defeating Poverty – NYTimes.com.

この話の主人公ビティ・ローズの写真↑

2012年7月4日 The New York Times
ニコラス D クリストフ マラウイ発

世界の貧困を崩そうとするアイディアはいろいろあるけれど、その中でも斬新で、秀れたアイディアを知りたいなら、南アフリカ共和国マラウイにあるナゾニ一家の掘っ立て小屋は最高の場所だ。

マスンバの村に暮らすアルフレッド・ナゾニと妻のビティ・ローズには、7人の子供たちがいる。2人の子供たちは医者に診てもらうことなく死んだ。アルフレッドとローズは、一番年上の子供が4年生のとき、学校をやめさせた。2人の話では、1学期5ドルの授業料を払う余裕がなかったからだという。2人はわずか2.5エーカーの土地だけを耕していた。種を買う金がないからだ。

しかし貧困とは物語の世界のように思えてくることもあるが、実際はもっと複雑な話なのである。45歳になるアルフレッドが私に話してくれたところによれば、子供たちが飢えているときでさえ、アルフレッドは平均して週に2ドルを地元の密造酒に、50セントをタバコに使った。さらに地元の女の子を買ってセックスをするのに週に2ドル以上を使うことも付け加えた。エイズが広まっているにもかかわらずだ。

こうした話はすべて不快な真実を示している。貧困の苦しみとは低い収入が原因なのではなく、自己破壊的な異常さが原因なのである。最近、ケニアで発表された政府の調査によれば、平均的な男性は食糧よりアルコールに給料を使うという。

これでは負の循環である。絶望のせいで人々がたどりつく自己治療とは、さらに絶望を深めるものなのである。

しかし脱出口はある。国際的な援助グループであるCAREによって設立された村の援助組織に、ビティ・ローズは参加した。このような「村人が貯金して貸付を行う」という考え方は、途上国援助の現場では非常に熱い考え方である。その考えは58ケ国の国で、600万の人々の役に立っている。

近年の経済危機からアメリカ人の多くは銀行を嫌うようになったが、世界の貧しい人の多くは銀行という贅沢を知らない。世界銀行の重要なレポート「財政の測定」によれば、世界で250億人以上の人々が銀行の口座を持っていない。

貧乏な人はだいたい収穫期の終わりに、一年に一度か二度、現金の束を受け取るが、それを貯金する手段を持っていない。このせいで、手にした現金を浪費する危険が増大する。

アフリカの国々では、携帯電話が新しい銀行システムとして広がりつつある。しかし、ここ南アフリカや世界の多くの国では、ビティ・ローズが入っているような貯蓄グループが解決策なのである。ビティと他の19人のメンバーは週に一度会って大体10セントほど貯金した。その金はメンバーに貸し出され、CAREが小さなビジネスを始める方法を教えた。

2ドルを借りて、ビティ・ローズは故郷風のドーナッツをつくって売り始めた。最初、彼女はそのドーナッツを一個2セントで売った。「みんなこのドーナッツが大好きなんだから」とビティは言った。確かにすぐに1日に数ドルの利益をだすようになった。ビティの成功に感化されて、アルフレッドも野菜を育て、売りに出すようになった。アルフレッドも目はしの聞く商人であることがわかった。

家族の資産が上昇曲線を描いていく様子を見るうちに、女遊びを止め、酒も控えるようになったと、アルフレッドは言う。

ビティ・ローズとアルフレッドは自分たちの畑のために種と肥料を買う元手を手にして、さらに2エーカーを借りた。最近では、2人は自分たちたちのために働いてくれる農場労働者を雇い入れている。以前、彼らの収穫はトウモロコシ一袋にもならなかったが、今年は牛車7台分の収穫があった。

もちろん貯金する者すべてが成功するというわけではないが、貯金をして商売を始めるように背中を押すことで、貧乏な人も変わり、自分を規制するようになることは明白である。2009年にCAREは活動の理想を求め、マラウイでももっと必要とされる場所に移転した。それでもこの村の周りでは、貯金グループがいちじるしく増加した。近所の農家は、ビティ・ローズとアルフレッドが雨漏りの多い草屋根からブリキの屋根に替えたことを羨み、自分たちでもグループで貯金しようと決心した。CAREが援助しなくても貯金して金を借りるという考え方は普及していき、国境を超えてモザンビークの村まで広まった。

しかしながら、この話にはマイクロセービング(少額融資)と起業の話にとどまらない何かがあると思う。マサチューセッツ工科大学の経済学者であり、「貧乏人の経済学」という秀れた本の著者であるエスター・デュフロによれば、貧しい人々に希望を与えることにより、関係のない領域にまで少し働きかけることがあるという。まさにこれこそ、多くの国で私が見てきたことなのだ。収入を増やすことが可能だという思いを人々が抱けば、援助は成功する。勤勉に働き、よく考えて投資するようになれば、収入を増やしたいという人々の願いが叶うのだ。

アルフレッドとビティ・ローズの希望は、幼い子供たちに向けられている(一番年上の子供は結婚してしまった)。ビティ・ローズは一度も学校に行ったことはないが、幼い子供たちを大学に行かせようと計画している。

ビティは、これから買うものについても計画をたてていて、この地域で最初の1台になるテレビの購入を検討している。だが、ビティがテレビで一息つくのだろうと誤解することのないように。ビティはテレビを投資として考えている。

「私は商売をする女よ」ビティは言いきる。「何だって、無料であげたりしない。サッカーの試合とかがあれば、家に見にくる人から料金をもらうつもり」(LadyDADA訳・BlackRiverチェック)

LadyDADAのつぶやき・・・この記事は、バナジーとデュフロが所長をつとめるアデュル・ラティーフ・ジャミール貧困行動センターのホームページでも紹介されています。http://www.povertyactionlab.org/

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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