2018.04 隙間読書 安部公房『デンドロカカリヤ』

コモン君が植物に変身していくまでの葛藤を描いた変身譚。

なんと言っても印象に残るのは不思議な名前たち。

タイトルであり、主人公が変身したときの名前である「デンドロカカリヤ」、主人公の名前「コモン君」、彼女と待ち合わせをする喫茶店「カンラン」…どの名前も不思議な響きがあって印象に残るけど、意味がわからない。でも、わからないと考えたくなるもの。この不思議な名前の由来をあれこれ考えてみた。


「デンドロカカリヤ」…どこか聞いたことがあるような。もしかしたら花屋で見かける蘭の「デンドロビウム」か? すると「カカリヤ」も花の名前なのか? 調べてみると「カカリヤ」は真っ赤な菊のような花、ベニニガバナという花らしい。可憐な花である。

たちまちコモン君は消え、その後に、菊のような葉をつけた、あまり見栄えのしない樹が立っていた。

たしかにコモン君が植物に変化してしまうところで、安部公房も「菊のような葉」と書いているから、「カカリヤ」は菊のようなベニニガバナではないだろうか?

コモン君は蘭と菊の合体したような植物に変身したことになる…とても綺麗そうな植物に思えるから、変身譚にありがちな気味悪さがない。変身する過程でコモン君は不安に襲われるけれど、そんな綺麗そうな植物ならいいのになあ…とさえ思ってしまう。


次に「コモン君」。

「平凡な」という英語の意味からつけたのではないだろうか? 平凡なコモン君が、すごく綺麗な花に変身するのだろうか。作品には、「あまり見栄えのしない」と描写があるけど、「デンドロカカリヤ」という名前はとても見栄えがしそうな響きがある。


「デンドロカカリヤ」が植物由来の名前だとしたら、喫茶店「カンラン」も植物なのだろうか?   「カンラン」、これは「寒蘭」のことでは? 蘭の名前がついた場所だと考えると、変身への不気味さはやはり減じてしまう。

ギリシャ神話に出てくる植物に変身した人々についても、この作品で言及されている。月桂樹、ヒヤシンス、葦、からまつ、向日葵、黄水仙…いろいろな植物に変身しているものだなあ。

でも安部公房は植物への変身についてこう語る。

結局、植物への変形は、不幸を取除いてもらったばっかりに幸福をも奪われることであり、罪から解放されたかわりに、罪そのものの中に投込まれることなんだ。

蘭や菊に変身することが、なぜ幸福を奪われることなのか?なぜ罪に放込まれることなのか?肝心な部分が理解できないまま本を閉じる。

読了日 2018年4月10日

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