あきらかに金沢だと思われる架空都市「香坂」を舞台にした短編集。どの短編にも幽霊やら超異常現象が織り込まれ、幽霊を切望する刑事木崎の気持ちも、各短編で書かれる不思議な出来事も幻ではないか…という刑事木崎の問いかけに答える幽霊の娘の言葉も、つよく印象に残る。
「幻というのは」石の上に妙な恰好ですわった幽霊はつづける、
「それを信じたいと思う人がつくり出し、信じてもいいと思う人の目に見えるものです。自分だけでなくほかの人の目にまで見えるものをつくり出すには、最初の思いがよほど強いものではなくてはなりません。
そしてそうまで強い思いとは、たいてい悲しさやさびしさです。そんなにも強い悲しさやさびしさがあり、それが幻でなぐさめられるというのなら、そういうものがあっても少しもかまわないじゃありませんか」
「どこからが夢で、どこまではそうでないと線を引いたところで、木崎さんのなさることは変わりますか。もし夢だとわかっていたらこうはしなかったーということが何かありますか」
ただミステリとしてだけ考えてしまうと、考えている途中で少し崩れてきてしまうような…登場人物が幻かもしれないのだから無理もないが。ミステリと幽霊が共存するのは難しいのかもしれない。
それでも銀杏坂の幽霊のたたずまいは何とも可憐だし、刑事木崎の幽霊をもとめる気持ちもナルホドと納得…した。幽霊は物質をとおすけど光はとおさない…でミステリを成立させることに疑問は残るけれど。
2018年4月23日読了