作者:キプリング
訳者:橋本槇矩
世界幻想文学大全 怪奇小説精華収録
インドに暮らす英国人のひとりフリートは、地元の寺院で猿の神様ハヌマンの赤い石像に煙草の吸いかけをおしつけ、「獣の印」(正統でない異教の印)をつけたと言う。するとハンセン病の男が体をおしつけてきて、やがてフリートは獣と化していく。
ハンセン病という設定はいただけないが、見知らぬ男にフリートが抱きつかれる場面の描写も、獣と化していく場面の描写も怖い。
「そのとき、急に銀色の男はわれわれの腕をかいくぐって、オットセイの鳴き声にそっくりの声をあげながら、フリートの身体に抱きつくと、我々が引き離す間もなく彼の胸に頭をつけた。それから男は隅の方へ引きさがり、オットセイのような声を出し続けて座っていたが、その間にも増える群衆は戸口という戸口をふさぐように立ちはだかっていた」
銀色の男にしても、オットセイの泣き声そっくりの声にしても、立ちはだかる群衆にしても怖い。だが、この恐怖はキプリングはインドの人に対して抱いていた差別意識からくるものなのかもしれない…と思うと、翻訳してみようかなと思っていたこともあるキプリングだが、その気持ちも消えてしまったかな。
読了日:2018年5月2日