2018.05 隙間読書 村山槐多「鉄の童子」

文豪山怪奇譚収録

22歳で亡くなった村山槐多の、生前は発表されなかった未完成の作品。

「山獄歴程」「壁の町」「裸童の群れ」の三つの部分から成る。


「山獄歴程」は内容をよくあらわしたタイトルで、山獄とは言い得て妙な表現だと感心。山獄を「一族の歴史」を調査するかのように歩きまわるその旅は、読んでいるうちに息をきらしながら山を登っているような圧迫感がある。

自分は以来狂気の様に歩きまわった。炎につつまれた聖者の如く毎日毎日紫と群青との山々をよじ登り渡り歩いた。山脈は実に濃き数代の遺伝、空気に触れず千年を流れる血の河である。その山脈に属する多くの山々は代々である。子孫である。自分は一族の歴史を調査するが如く神秘な心で、山々を経巡った。山の系図は実に罪悪もしばしば蔵して居た。中には人知らぬ混血の山々があった。また純なる山々も多かった。


山をおりた主人公が足を踏み入れる町「壁の町」。この町のくだりは夢のよう。不思議な町で、不思議な人々に出会う夢のようなくだり。いつまでも「壁の町」をうろうろしていたくなる。

翌日の九時半頃起きてこの小市の大体を見る為に宿を出た。数歩歩むともう此町が著しく古びた退廃した物であることがわかった。家々は皆実に古趣を帯びた薄暗い埃に染まり茫然と一種のだだっぴろい沈黙を守って居るのである。そして薄紫と土色との混じた色の壁が至る処で非常に強い現象をなして居る。そしてその厚い壁と薄い瓦との建築で何だか全体壁で出来た様に見える家ばかり列んで居るのである。『壁の町』と自分は呟いた。家々は皆低い狭い入り口を有って居るだけで、窓もない様な外観である。盲目の家である。そしてその感じは実に冷酷を極めて居た。

村山槐多の「壁の町」にとどまっていたいと思いながら静かに頁をとじる。

2018年5月14日読

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