明日のミステリ読書会のために「悪女について」を再読して思うこと。それはこの作品の華やかさ、構成の力強さが有吉佐和子の強みであり、また同時に弱みにもなっているのではないだろうか…ということである。
「悪女について」は、有吉佐和子の才気煥発さがきらめく作品である。多様な一人称での語り口の魅力、複数の視点で主人公「富小路公子」を語る面白さは読むたびに感嘆してしまう。
ただ、その一方で不思議に思うのだが、これだけ有吉佐和子が饒舌に「富小路公子」について語っているのに、どうも富小路の存在が薄っぺらなものに思えてくる。これは何故なのだろうか?
富小路の生い立ち、育ち方を考えたときに、なくてはならないと思われる影が、有吉佐和子の語りからは見出せない。そのせいもあって富小路はたしかに豪華で、きらきらした、でも寂しい女性には思えるけれど、そこには一抹の影も見出せない。それが富小路の存在を華やかにも、薄っぺらにもしていると思うのだが、どうだろうか?
さて以下はネタバレにもなるかもしれないのでご注意を。
富小路の死は、事故死か自殺か曖昧なままで終わる。だが私は他殺かなあと考えたい…ミステリ読書会で読むことだし。
犯人は東京レディス・クラブの支配人「小島誠」。
小島から求婚されて躊躇う富小路。ついに小島が強引に迫って、入籍はしないけれど、ハワイの教会で10日後に挙式する予定になった矢先の事故であった。富小路は小島を電話で社長室に呼び出して、ハワイの式で着る予定の真紅のドレスを見せてから、小島が部屋を出て間もなくして転落死した。
その後、読み進めていくと、真紅のドレスを見せて転落死する直前に、富小路は10代の頃からの恋人でニューヨーク在住の「尾藤輝彦」に電話をかけ、「10日後ハワイに行くから、そのあとひとりでニューヨークに行く」と告げたことがわかっている。
もしその場面に小島が居合わせたとしたら、入籍してくれない恨みもあって逆上、富小路を窓の外に突き落とした場面が安易に浮かんでくるのではなかろうか?
小島も、富小路が「7階から、ビルの北側の通路に落ちた」という通報を受けたときに、「あの直後に、あの部屋から飛び降りるなんて」と勝手に「飛び降りる」と語ってしまっている…このあたりは犯人ならではの言葉の選択肢ではなかろうかと思うが、さて?
でも、そんな不粋な終わり方よりも、富小路の次男「義輝」の言葉で真相不明のまま終わりにしたのは、やはり綺麗な終わり方だなあと思う。
ママは、あの日、ビルの更衣室で虹色に輝く雲を見たんだ。美しいものには眼のないママだったから、前後の考えもなく、その雲に乗ろうとしたんだ。