2018.10 隙間読書 香山滋「金鶏」

1948年(昭和23年)岩谷書店にて初出。

国書刊行会の復刻版「木乃伊の戀」で読む。


香山滋44歳のときの作品。ふと今見れば、本には「装丁・挿絵 香山滋」とある。絵が好きだったんだなあ、道理で視覚に強く訴える場面が多い。

なかでも挿絵を描き、その下に文中の一節「美しい外交官夫人に戀した金鶏は、彼女の胸に己れの姿を刻印した」と書いている場面は、香山のお気に入りだったのだろう。思わず見入ってしまう。

香山が挿絵で描いた外交官夫人の目は左右がアンバランス…読んでいても、同情すべき立場の女性なのに、その心の冷たさ、残酷さが印象に残る人物である。そして髪の毛はじっと見つめていると人の顔が幾つもうかんでくるようにも…やはり、この美しい外交官夫人には、人の心の勝手さ、嫌らしさが反映されているように思う。比べると浮気相手に搾り取られる夫も、外交官夫人の一言を真に受けてしまう金鶏も純情に思えるのだが…。


「金鶏」は短編だが、長編にしても楽しめそうな要素が多い。

外交官夫人への恋、外交官夫人への侯爵の恋、外交官夫人の胸に刻まれた金鶏、金鶏への侯爵の闘い、外交官夫人のかつての夫のエジプト娘への浮気、夫への金鶏探しの依頼、外交官夫妻の金鶏をさがす旅と苦難、密林のなかの処女洞窟とその中の財宝、財宝を隠した船長と木乃伊の女との恋、浮気したせいで生きながら木乃伊にされた三千五百年前の王妃、鳥となって甦った王妃の浮気相手、木乃伊の女と瓜二つの外交官夫人に恋する鳥…

これだけ興味深いエピソードがあるのだから、秘境への冒険長編小説が書けそうではないか。


文がたくみなわけでもないが、なぜか視覚的に残る文が多い。なかでもミイラは、怖くなるほど生き生きと描写している。


妃がミイラに生きながらされる場面

妃は、メムノニヤのミイラ職人に、生きの身を剖れ乍ら、ネブ・ワァの神に祈り叫んだ。(わらははいつの日にか必ず甦る―その日にこそ、いとしきクリベよ、お身も共に甦って、うつし世に果たし得ざりし戀を完成せしめようものを)


ミイラの妃が甦る場面…怖い。

妃は甦った。全身を螺旋状に巻き附けてゐる棕櫚の樹液を浸した繃帯をみづからの手で解きほぐして、甦へれるクリベの前に立ったのである。


ミイラから甦った妃がまた死んでいる場面…やはり怖い

だが、そのときには、妃はその日をも待たず、縫合はされた胸腹の糸のほぐれに再び悲しい屍となつて横たはつていた。


 これほどミイラを見るがごとく書いた作家はいないのではないだろうか? 香山滋のミイラ愛はどこからきているのか…と思いつつ頁をとじる。

2018 /10/17読了

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