Cutting the corruption tax: A way out for Greece | vox.
2010年8月11日
収賄と政治的な身びいきがしばしば、ギリシャ政治の避けがたい部分として見受けられてきた。このコラムでは、1970年代に同じようなことを言われてきた香港が、今では汚職が少なくなり、灯火のような存在となった経過について考えてみよう。香港は、英国政府に責任のある総督を選挙ではなく指名することで、この汚職からの脱却を成し遂げたのである。ギリシャもEUに頼ることで同じようなことを成し遂げ、利益を得ることができよう。
私たちの多くは公務員が法律に従うことは当たり前であると考えている。合衆国で、ニューオルリンズの警察業務を担当する部局が、殺人、レイプのような犯罪を犯し、しかも隠蔽していたというニュースを聞いて、これが必ずしも真実ではないということに気がついたのである。無法状態の弱体国家で暮らすほうが、公務員が職権を乱用する強力な国家のもとで暮らすよりましだと思うようになったのである。
多くの国で、人々は弱い政府のもとで生きている。なぜなら強い政府が権力を乱用することを恐れるからである。こうした不安は、とりわけギリシャのような国においては正しい。ギリシャの人々は今でも、1960年代後半に陸軍が国家を掌握し、容赦なく反対派を鎮圧したときのことを覚えている。
不幸なことに、ギリシャの現在の経済状況には深刻なものがあり、弱体化した国力ではなんとも出来ないものである。ニューオルリンズでは、市長と地域の指導者たちがアメリカ合衆国司法省に介入するよう頼み、市の機能していない警察組織を改革した(ロバートソン、2010年)。ニューオルリンズの市当局のように、ギリシャは援助を求める必要がある。
財政危機からの回復が遅々として進まなければ、ギリシャ社会の機能は脅かされることだろう。こうした事態を避けるには、ギリシャの国民はEUに支援を求めるべきである。ただ、これ以上金を借り入れたりする支援でもなければ、予算を監督するようにという支援でもない。新たな試みが政治的な立場に影響されないよう保証するものであり、汚職を取り除いて、機能不十分に陥っている行政組織を刷新しようとする試みへの保証である。EUと共に努力することで、ギリシャは堅固で、収賄がなく、公務員がよく働く国家を直に建設し、危機から抜け出すことができるだろう。
ギリシャにおける状況
汚職と無能な公務員は、ギリシャの公共事業部門で操業する企業すべてに税金という形ではねかえってくる。この税金は操業を開始したばかりの企業や、ギリシャで投資したいと考えている企業にとっては負担の大きいものである。
若手のある財界人から聞いた話である。その財界人のことを仮にジョンと呼んでおこう。ジョンは最近経験したばかりの、地方の役所との攻防について語ってくれた。役人はジョンの会社の許可証のひとつを取り消してしまった。ジョンが役人のガールフレンドをコンサルタントとして雇い、彼女の海外にある貯金口座に支払いをすれば、許可証は再発行すると言われたそうだ。ジョンが法律に頼ろうとしても出来ることは限られていた。役所に対抗することは、いつまでも法廷にぐずぐず居残ることになるだろう。そのあいだ、ジョンの会社は許可証がないので操業することができない。ジョンは政府で高い地位にいる人に相談し、地方の役所の言い分をしりぞけることになった。見返りに政府の高官が何を受け取ったのかということについては、ジョンは語らない。
こうした類の行動は秘密裏のものではない。トランスペアレンシー・インターナショナル(訳注・・・腐敗、汚職に対して取り組む国際的な非政府組織)の2009年腐敗ランキングでは、ギリシャはEU内では最悪であり、ルーマニアやブルガリアと並んでいる。この段階で、収賄は政府全体に対して、明らかに影響をあたえている。ダニエル・コフマンが2010年に指摘したところによれば、収賄と国庫歳入の赤字には強い相関関係があり、ギリシャのように産業化がすすんだ国でも同様なのである。ギリシャで国家予算の現状が苦しいのは脱税のせいである。また政治的な身びいきのせいで、不要な雇用が生じてしまい公務員の給料支払が膨らむせいでもある。ギリシャの汚職の割合がスペインと同等であれば(スペインも金本位制度には遠いが)、過去5年間に不足した予算は現在の6.5パーセントではなくて、平均にして2.5パーセントにおさまるだろう。
ウォールストリート・ジャーナルでマルカス・ウォーカーが指摘しているように、ギリシャでは納税されるべき税金のうちおよそ4分の1が支払われていない。ウォーカーはまた、パパンデュラス首相のストレスとなっているのは、ギリシャの政治家たちであると言う。票を確保するため、地区の投票民に公共行政の仕事を約束するからだ。財務省の見積もりでは、2009年秋の選挙では、政府は27000人を給料支払い者の一覧に加えたと言う。新しく雇用された者の多くは、公的な資格もなければ、仕事の経験もないと言う。(ウォーカー2010年)
政治家の支援者にかける費用のほうが、必要数を上回る公務員に支払う給料より多くなっている。政治家の身びいきのせいで価値が見失われるような仕事環境では、従業員への懲戒は緩やかである。また政府組織が不適切に運営されていくうちに、収賄は拡散される。とりわけ顕著な失敗は司法組織であり、判決がでるまでにかかる時間には悪評高いものがある。ガールフレンドへの支払いを求めた地方公務員が理解したように、こうした状況が犯罪的な行為に手を染める機会を広げているのだ。
私に話かけてきた企業の役員は、収賄という重税を集めることで生計をたてている。外国の企業は彼の会社をとおしてギリシャで投資をして、一方、彼は役所からの要求を処理していく。しかし彼の労苦には費用がかかるのである。コフマンとウェイが国際的な企業格付け調査期間のデータを用いて発見した事実だが(1999年)、複雑な役所の手続きに時間をとられるのは、賄賂の支払いを拒む企業より、むしろ賄賂を支払う企業経営者の方らしい。また収賄をする人のほうが資金をよく使うらしい。
収賄という重税を除くことで生じる利益
収賄にまみれ公務員がよく働かない組織は、最悪の税のような役割をはたす。歳入はふえることなく、経済活動を躊躇させてしまう税である。現在のような危機の最中において、収賄という重税を削減することは、三つの面で勝利することになるだろう。長期的にみれば、収賄という重税を削減することで、これからの生産量が上昇するだろう。中期的にみれば、そうした削減はギリシャにおける生産物にかかる費用を減少することになり、赤字幅を狭めることになるだろう。短期的にみれば、それは外国企業や新規事業の投資を促し、経済活動が完全雇用へと進んでいくだろう。
目下の取り組みは国庫の引き締めにもとづいて、予算の赤字を減らすものである。一時的に輸入を減らすことで、現在の収支のバランスをとることになる。ある解説者によれば、これ以上の不景気には好ましくない副作用があるということだ。実際、長引く不況は、赤字を減らそうとする取り組みにおける肝心な部分でもある。もしギリシャが財政引き締めにのみ頼っているなら、長く、底のない不景気は賃金を低く押さえるだけの結果となり、貿易相手国に応じてギリシャでの生産物の値段を変え続けることになるだろう。
長引く不況が必要なものにならないように、多くの国では、財政緊縮と為替レートを結びつける調整プログラムを実施している。だがユーロ圏内であるために、ギリシャにはこの選択肢がない。こうした状況のもと、汚職にまみれ十分に働かない公務員へ支払う収賄という重税は、タイムリーな障害物なのである。そうした収賄を取り除くことで、ギリシャは費用を削減し、ビジネスをするのに競争力のある場所となる。私たちはこの正確な大きさを知らないが、収賄の削減は大きい。新しいビジネスを始めようとしている青年が私に話してくれたのだが、もし香港政府のように誠実で、効率的に運営されている政府を相手にすることができるなら、付加価値税が15パーセント上昇しても喜んで払うだろうということだった。
香港における実験
最近まで、ギリシャ政府はどこの国でも標準となっている地方、国家、国民の三層ではなく、5つの層から政府が成り立っていた。この政府における余計な層のせいで汚職の機会が増え、公務員はますます働かなくなった。現在の行政機関は配慮されて選ばれたもので、統一するように考えられている。しかし政府の層が薄くなったところで、汚職と非効率さは残された組織に居残り続けることだろう。
収賄と政治家による身びいきは、避けがたい「ギリシャの現実」なのだという者もいる。ギリシャに政府がある限り、汚職と働かない公務員のために支払う収賄という重税は存在するだろう。1970年代に香港でも、文化に関する悲観主義者たちは同じように、香港はいつまでも汚職が続くだろうと考えた。実際、香港での体験談は、いかに汚職がひどかったかを示している。実行することが可能な政策をとることにより、収賄という文化が時間をかけずして変わっていったのだ。
他の多くの地域と同様、香港でも役所の収賄と戦う責任を握ったのは、好都合にも組織が機能していない警察当局の公安課だった。1974年に香港総督が収賄を取り締まる権力を与えたのが、廉政組織(収賄に対する独立委員会ICAC)であり、新しく設置されたばかりだが強い権力を与えられた省内の組織である。委員会が責任をとるのは香港総督に対してであり、間に組織は入らない。また香港総督自体が直接選挙ではなく、指名されてなるのである。
香港総督はワンマン的な指導者ではなかった。民主主義に基づいて選ばれた英国首相に対しては責めを負うが、香港総督の地位は地元香港で政治的な論争がかわされた結果生じるものではない。その結果として、総督にしても、理事にしても責めを負うのは英国首相であり、大したことのない政治的な利益のために相応の権力を使うことには関心をもつことにはならなかった。香港の知事たちが強い権力を委ねられていたのも、海の向こうの民主主義に責任をおっていたからであり、その民主主義こそ香港が目指していたものだからだ。
案の定、ICACの試みに警察はかなり抵抗した。香港総督は、警察がストライキをしたり、暴力で脅かしてきた後、ついにアムネスティに過去の犯罪を報告することになった。当時アムネスティに報告したことは敗退として見なされたが、そのおかげで委員たちはすべての情報を使って、警察や公務員の汚職をふくむ最近の事例を起訴することが可能となった。これは収賄がさらに続くことを抑止する力ともなった。
正式に訴訟に踏み切ったことに加えて、ICACは香港の社会基準を変えるのに教育を用いた。ICACは様々な場面で、キャンペーンを行うように取り組み、反収賄の授業を公立学校の授業に加え、反収賄のテレビ番組も制作した。ICACは、時間をかけて収賄の件数の変化を追跡した調査結果も発表した。ICACはすべての省庁の規則を見直して、収賄の機会を減らすために規則の見直しをした。
香港の複雑な収賄の文化については、これで終わりにしよう。調査によれば、賄賂を要求する頻度は急速に減ってきている。今日、香港は世界で一番賄賂が少ない国で、日本、イギリス、アメリカより賄賂が少ない。
殴り合いの場に銃?
香港のICACのような委員会がギリシャにおける収賄という重荷を取り除くことが出来るなら、そして現在の危機の最中に役立つことをしてくれるなら、なぜギリシャではそのような委員会が設立されなかったのであろうか。この問題は、ギリシャの民主主義と同じくらいに古いものである。プラトンが観察して述べたように、もし管理者のおかげで無法状態を守るのなら、誰がこの管理者を守るのだろうか。
収賄の件を起訴でき、公共サービスから十分に機能していない公務員を引きずり出すほど強固な政府組織なら、職権を乱用しがちだろう。考えて選びながら起訴を行い、公務員の解雇通知をするならば、ある政党を助けたり、別の政党を傷つけるのに用いられることになるだろう。中立的な方法で用いられるにしても、起訴された者はその理由は政治的なものだと主張するだろう。こうした主張が繰り返される度に説明を行うことで、委員が正当であることが確実になっていく。
ギリシャにおける政治的な競争は、バーの殴り合いの喧嘩のようなものだ。力のある新しい組織をつくり出すということは、喧嘩の最中に銃を放り込むようなものだ。どの政党も、軍部が政権がのっとった間、強い国家権力が乱用されたことを記憶している。このままでは、新しい政権が国力を弱体化する危険なものになることは認めるだろう。しかしチャンスが与えられるなら、ギリシャの人は新しい長官を街に招くことをまだ希望しているのかもしれない。 EUにもたらすもの
EUの一員となったせいで、ギリシャには世界の他の国には通用しない選択肢が示された。EUの信用性に乗じて借入金をすることで、香港が1970年代に始めた収賄に対する戦いと同じものを、状況を変えるための戦いを開始することができる。もし収賄対策に取り組む委員の任命過程には政治的なことが影響しないことをEUが証明するならば、ギリシャは政治的な均衡を乱すこともなく、収賄という重荷を取り除くことが可能だろう。
収賄という重荷をとりのぞく過程はたくさんあり、異なるやり方で組み立てることができる。例えば、ギリシャの政党と市民団体が、収賄対策委員の名前を示すようにしてもよい。EUの大統領がその一覧表から委員任命を約束し、交代したほうがよい力をそのまま存続させたり、委員へ再び任命したりすることができるだろう。中央銀行の銀行家のように、委員の長は明確な指示をだし、広い決定権をもって反収賄を達成することが可能になる。とりわけ委員の任命と罷免に関しては決定権がある。香港の例に従い、アムネスティの過去の収賄に関する調査を詳細に述べながら、委員の長は将来に重点をおいて行動することができるだろう。
EUが関わることで、最後の条約が期限切れの失効状態になるかもしれない。条約は、国民投票において収賄による多数派の投票に基づくものだ。トランスペアレンシー・インターナショナルの世界腐敗認識指数や世界銀行管理の収賄測定のような事実に基づく指針は、この条約の失効にむけて引き金を引くことになるかもしれない。
香港と同じような独立委員会が存在すれば、ギリシャの公務員に仕事を管理していく上で、基本となる要素を教えることができるかもしれない。公務員人事委員会があれば、政治的な身びいきに基づいて雇用したり昇進したりという事態も終結するだろう。自分の仕事をする人々には報酬が与えられることになる。仕事をしない人々には仕事をするように警告し、職業を変えるように勧めたり、解雇することもあるだろう。こうした取り組みのおかげで、法廷や税関系など主要な政府組織は実際に機能していくだろう。
掛け金は何か
EUのプロジェクトとは、同盟国の統治に関するあらゆる面を改善していこうというものである。EUの運命は、ギリシャ危機がどう解決されるかにかかっている。
中央集権化されたEUが加盟国の予算を監視しようとする申し出は、実行するには困難なものであり、焦点が狭い考え方である。これから概略を述べる申し出は、政府内で誠実に行動し、十分に機能している独立委員会なら、即座に実行するだろうし、今よりはるかに役に立つ存在になるだろう。ギリシャの状況に特有な方法で原型がつくられ、必要があれば他の国にも適応させるだろう。
EU内で定着した民主主義は、強い番人を守らなくてはいけないという問題を解決してきた。EUという組織をとおせば、受けるべき恩恵もなく生きている人々をささえることができる。ちょうど合衆国政府がニューオルリンズの人々を支えるように。ギリシャだろうと、ニューオルリンズだろうと必要なことはただ、地元の行政府が必要としていることなのである。(さりはま訳)(リバーチェック)