Higher education: The college-cost calamity | The Economist.
エコノミスト 2012年8月4日
緑ゆたかな通りとゴシック様式の建物のせいで、シカゴ大学は落ち着いて、勉学に集中できる場所のように見える。この大学に投資したジョン・D・ロックフェラーは「私がしてきた投資のなかで最高の投資である」と言った。しかしシカゴ大学と他の非営利によるアメリカの大学は、最先端の企業が事業を始めるときのように負債を積み上げてきた。
アメリカにおける非営利による大学の長期負債は、コンサルタント会社のベイン&カンパニーとプライベート・エクイティ会社のスターリング・パートナーズの見積もりによれば1年につき12パーセント増えてきている。新しいレポートでは、2006年から2010年にかけての1692の大学のバランスシートとキャッシュフローの表を分析しているが、三分の一の大学が以前より著しく弱体化していることが判明した。(表1参照)
高等教育機関の危機は数年にわたって増大してきた。大学は、ロックフェラーが支払いをもってくれるだろうと考えてバーで飲んでいる学生のように金を使ってきた。この2年間で、シカゴ大学は立派な新しい図書館(そこではロボットが本を手際よく持ってきてくれる)、新しい芸術センター、10階だての病院を建設した。さらに北京に新しいキャンパスを開校した。
そして、これはシカゴ大学だけの話ではない。莫大な投資をすることで大学側が期待しているのは、最高の職員と学生をひきよせることであり、研究への援助や寄付金が集まることであり、大学間比較一覧表でのランキングをあげることである。また大学の理事たちが湯水のごとく使う借金の割合も増加してきている。(表2参照)
こうした費用を支払うために、大学は入学者数を増やし授業料を値上げした。学生一人当たりの大学にかかる費用は、1983年からインフレも考慮すると3倍に値上がった。授業料の費用も、2001年は年間所得中央値において23パーセントであったものが、2010年には38パーセントにまで上昇した。こうした上昇が、いつまでも続くわけがない。
報道によると、学生のローンはこれまで最高の1兆ドルに達した。財政危機以前のことだが、民間の貸し主はサブプライム住宅ローンのように、危険の高い学生ローンを売り物にして狂乱をあおった。もうこのローンは中止されたが、2008年に頂点にたっしたときプライベートローンの貸し主は20兆ドルをばらまいた。それが昨年では、貸し主たちはわずか6兆ドルを貸し付けただけだ。
連邦政府の高等教育への援助は、歴史的にみても、高いレベルを維持しているが、州政府は削減してきている。さらに悪いことには、寄付(とその利潤)が縮小してきている。慈善事業からの金がとだえ、必要な援助を求めようと大学が見いだしたのは、学生がこれまで以上に必要であるということである。
こうしたことすべてが示していることは、大学には負債について心配するもっともな理由があるということである。学年があがっていくように、負債がふくらんで消えてなくなるということはありえない。ハーバード、イェール、コーンェル、ジョージタウンですら維持できない道を歩んでいるとベインはいう。これらすべての大学が衝撃を和らげてくれる多額の寄付を持ち合わせていたにしてもだ。
「高等教育機関のバブル」という本の著者であるグレン・レイノルドは、この大学のバブルは激しく、みじめに爆発するだろうと予言する。人々が長年にわたって信じてきたことは、「費用がいくらかかろうと、大学教育は将来の繁栄への必要なチケットだ」ということである。安易な貸し付けのせいでさらに人々が大学教育へ支払うことが可能になり、大学はさらに現金を吸い上げるために授業料を引き上げた。しかし、こうしたことは長くは続かないとレイノルド氏はいう。宗教学や女性学の学位をとるのに必要となる支払いが100000ドルの価値があるかと、人々が問い始めたときこそが危機だ。
ベインのコンサルタントをしているジェフ・デネンは、大学の経営状況について更に慎重な見方をしている。大学教育には余計にかかる費用にみあうだけの付加価値がないとデネンはいう。たしかに平均的な学生は以前より学習時間が少なくなり、過去とくらべて学習量が減った。成績のインフレは、こうした傾向を部分的にごまかすものである。大学バブルがはじけるだろうことはデネン氏も同意しているが、「激しくみじめに」とは言っていない。
大学のなかには、財政問題への取り組みを表明しているところもある。コーネル大学は2009年に始めた。学長のケント・フックスは、大学当局の費用を削減することで7000万ドルの費用削減を提案した。もし職員が優れた能力を発揮することに集中し、すべてをやろうとはせず、重要な事柄を更に選び出していくことでコスト削減ができるだろうと考えた。フックスは大学とは拡大しやすい傾向があると指摘した上で、財政上の苦労は焦点を絞り込む機会だと述べている。
2010年以来、多くの寄付が価値を取り戻してきた。823校のデータによれば、2011年には19パーセントの利子が示されている。シカゴ大学は、2010年から財政が改善されている大学のひとつだ。ブランド力のある大学は爆発はしないかもしれない。しかし、必要にかられて盲目的に入学許可をすることになるかもしれない。あるいは花形教授の雇用を低く抑えなければいけなくなるかもしれない。
知名度の低い大学は多額の寄付金をもらえないので、もっと削減しなければいけないだろう。こわごわと毎年すべての学部の予算を少しずつ切り詰めながら、よき時代が戻ってくることを望んでいるのだが、そんな夢はかなわない。学部や学科は選別され、キャンパスが統合されたり閉鎖されたりするだろう。
公立大学は強いリーダーシップを発揮することで、私立の大学より統合のハードルを低くできることに気がついた。ニュージャージーでは、医学部をルツガー大学と合併した。さらにジョージアだけで、4組の合併がある。ひとつはオーガスタ州立大学とジョージア健康科学大学の合併であり、これにより管理費用やコストが減るだろう。
営利目的の大学は、こうした状態の例外であることが判明している。ほとんどの大学は財政状態が良好で、健全な状態にある。しかし、こうした大学も立法者から圧力がかかっている。立法者たちは助成金320億ドルにあうだけの価値を、大学が生み出していないと考えているからだ。トム・ハーキン上院議員の新しい報告書によれば、営利目的の大学が積極的に学生を入学させておきながら、学ばせる学問の内容は貧弱で、しかも学費が高いと非難している。
大学を後押しする人たちは、こうした災いを予言する者たちに辛辣な言葉で応答している。果たしてそうした人達がいうように、科学技術が進歩するにつれて、教育への需要は増加し続けるのだろうか?皮肉屋は、ベインの忠告は慎重に受け取るべきだと付け加える。もしアメリカの大学の多くが構造改革をすることにしたら、コンサルティングと分厚い契約を結ぶことになるだろうからだ。
それでも災いを予言する者たちには一理あるのかもしれない。寮生活をおくる4年制大学は社会が支払うことのできる能力よりをこえる速さで、いつまでも授業料を値上げし続けるわけにはいかない。とりわけオンラインでの単位が安くなってきている今では、そうはいかない。前方のハリケーンに備えのない大学は倒されてしまうことになるだろう。(さりはま訳・りばぁチェック)
さりはまより一言
日本の私立大学の経営状況についてまとめてあるのはこちら中教審大学分科会www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/…/006.pdf
日本の大学はアメリカと違い寄付金に頼る比率は少なく、学生の授業料に頼っている部分が高いように思える。
日本の私立大学の経営状況についてはこちらから(中には非公開の大学もある)
私は数字に弱い人間だが、ぱっと見たところ、設備に金のかかる工業系の大学は資産と負債がぎりぎりの厳しい状態に達しているるように思える。
いっけん財政にゆとりのあるように見えるW大学なども、最近、学生の数をやたら増やした結果、収入が増えただけである。その結果、W大学よりネームバリューの低い大学は苦戦することになっている。
しわよせが学生や教員(それも非常勤の職員)にいき、大学教育の質が低下しないように日本も考える時期ではないだろうか。大学にいった先が見えないとしても、「それでも大学で学びたいです」と目を輝かせる若者はいるのだから。